一昔前までは、排便後の肛門はトイレットペーパーで拭いてきれいにするのが当たり前でした。

それが今ではウォシュレットの普及によって、排便後に肛門を温水で洗うのが通常となっている人がかなり多いです。実際に日本の一般家庭では、約80%の世帯でウォシュレットが使われているといわれています。

便には痔の発症・悪化の原因となる物質が多く含まれています。そのためウォシュレットによって肛門を清潔に保つと、痔になりにくくなったり痔が改善しやすくなったりします。

ただ一方でウォシュレットを使いすぎると、かえって痔が発症・悪化しやすくなります。そのため痔の発症や悪化などを防ぐためには、ウォシュレットを正しく使う必要があるのです。

ではなぜウォシュレットを使いすぎると痔を発症・悪化しやすくなるのでしょうか? また痔を発症・悪化させないためにはどのようにしてウォシュレットを使うべきなのでしょうか?

そこでここでは、ウォシュレットが痔を発症・悪化させる理由とウォシュレットの正しい使い方について述べていきます。

ウォシュレットには痔を予防する機能が搭載されている

日本は温水洗浄便座が世界一普及している国として知られています。

温水洗浄便座とは、温水で肛門を洗うことができるトイレのことです。また温水洗浄便座には、肛門だけではなく女性の局部も洗う機能がついているものが多いです。

温水洗浄便座はさまざまなメーカーから販売されており、その商品名が温水洗浄便座の一般的な呼び名となっています。

例えば一般的に、温水洗浄便座はウォシュレットと呼ばれています。ただ実際には、ウォシュレットとはTOTOが販売している温水洗浄便座の商品名です。またシャワートイレは、LIXILからINAXブランドで販売されている温水洗浄便座です。

このように肛門を温水で洗える便座の正式名称は「温水洗浄便座」であるものの、実際にこのような商品名で呼ばれるのはまれです。したがってここでは、温水洗浄便座のことをウォシュレットと表記していきます。

ウォシュレットは見えない汚れを落とすことができる

わたしたちの腸内には、数え切れないほど多くの細菌が住み着いています。そのため腸を通過して体外へ排出される便には、大量の細菌が含まれています。

また便には細菌だけではなく、人体に有害となる物質も含んでいます。そのため細菌や有害物質などが通過する肛門部分は、これらの汚れが溜まりやすい組織だといえます。

このとき排便後にトイレットペーパーで肛門を拭き取った際、「トイレットペーパーに便がつかないから肛門はきれいである」と思いこむ人は多いです。

ただ、便に含まれる細菌や有害物質などは目に見えません。そのためトイレットペーパーに便がつかないからといって、肛門がきれいになっているとはいえません。

また肛門には多数の溝があります。このような部分には便が入り込みやすいため、トイレットペーパーで拭くだけでは肛門の汚れを落としきれていないことが多いです。

ただ便に含まれる細菌や有害物質などは、肛門に炎症を起こす原因となります。肛門に炎症が起こると、かゆみや痛みなどが発生します。

いぼ痔や切れ痔などでは、どちらも肛門部分に炎症が起こることによってかゆみなどの症状が現れます。そのため肛門が汚れていると、痔による症状が悪化しやすくなります。

また細菌や有害物質などは肛門の皮膚や粘膜などの組織を弱らせます。組織が弱くなると、その分だけ痔を発症しやすくなります。このようなことから肛門が汚れていると、痔が発症・悪化しやすくなることがわかります。

このような中ウォシュレットでは、肛門部分に付着した目に見えない汚れを洗い流すことができます。そのためウォシュレットで排便後の肛門を洗い流すようにすると、痔の発症や悪化などを予防しやすくなります。

排便時に下半身が冷えにくい

家庭などで使われるウォシュレットの場合、暖房便座が搭載されていることが多いです。これは、通常ウォシュレットには便座カバーを取り付けないためです。

ウォシュレットに便座カバーを付けると、便座カバーが水で塗れます。だからといって便座カバーをつけないと、冷たい便座に座らざるを得ないことになります。

一般的に、冷たい便座に座りたいと思う人はいないでしょう。そのためウォシュレットには、便座を温める機能が搭載されていることが多いのです。

便座が温かいと、冬などの寒い季節でも下半身が冷えにくくなります。そして下半身の冷えは痔の大きな原因の1つです。

下半身が冷えると、肛門にうっ血が起こりやすくなります。特に排便時のポーズは下半身がうっ血しやすい姿勢です。

肛門部にうっ血が起こると、いぼ痔を生じやすくなります。またうっ血によって下半身の血流が悪くなると、皮膚の弾力性が失われて裂けやすくなります。つまり切れ痔が起こりやすくなるということです。

このようなことから排便時に下半身が冷えると、痔を生じやすくなることがわかります。したがって温水洗浄便座に搭載されている暖房機能も、痔の予防に一役買っているといえます。

なぜウォシュレットが痔を発症・悪化させるのか?

前述のように、ウォシュレットには痔を予防する効果のある機能が搭載されています。そのため基本的には、ウォシュレットを使うと痔になりにくくなったり痔が治りやすくなったりします。

また痔を発症すると、肛門部分に痛みやかゆみなどが起こります。このような痔の症状は肛門に触れたときに強く現れます。そのため痔ができていると、トイレットペーパーで肛門を拭くときに激痛が起こるようになります。

このときウォシュレットを使うと、痔ができている部分に直接触れることなく肛門をきれいにすることができます。そのため痔ができている人のほとんどは、ウォシュレットが必需品となっています。

ただウォシュレットの使い方を間違えると、かえって痔を発症・悪化させやすくなります。

過剰な除菌は体を弱くする

基本的に、清潔であることは体にとって良いことです。実際に不衛生な環境は、さまざまな病を引き起こしやすくします。

ただ近年の日本では、過剰な清潔を求める人が増えています。日本人の多くは菌を汚いものであると思い、スプレー剤などによる除菌・殺菌を頻繁に行っています。

しかしながらこのような行き過ぎた清潔は、病気を誘発します。

わたしたちの体では、さまざまなところに常在菌と呼ばれる菌が住み着いています。例えば皮膚には表皮ブドウ球菌という常在菌が住んでいます。また腸には、数え切れないほど多くの細菌が住んでいます。

このような常在菌は、体外に存在する菌が体に侵入するのを防いでいます。つまり常在菌は、体が病原菌に感染することを防いでいるのです。

これと同様に、わたしたちの肛門には体外の菌から体を守っている常在菌が存在しています。このような菌をウォシュレットで洗い流してしまうと、体に有害な菌が肛門で増殖しやすくなります。

肛門部分で有害菌が増殖すると、その分だけ肛門に炎症が起こってかゆみや痛みなどが起こりやすくなります。このとき痔が起こっていると、痔による痛みなどの症状がひどくなることになります。

また有害菌によって肛門がダメージを受けると、皮膚が弱くなります。そうすると、小さな刺激で裂けたり腫れたりしやすくなって痔を発症しやすくなります。このようなことから、肛門を洗いすぎるとかえって痔を発症しやすくなることが分かります。

洗いすぎると皮膚が弱くなる

不潔であるとされているのは、細菌だけではありません。皮膚から分泌される皮脂も、不清潔の象徴として取り扱われています。

たしかに、空気によって酸化した皮脂は悪臭の元になります。また酸化した皮脂が取り除かれないと、肌荒れなどが起こりやすくなります。そのため酸化した皮脂は、なるべく早く取り除くべきだといえます。

ただ皮脂そのものは、体を守るために分泌されているものです。そのため皮膚から皮脂を取り除きすぎると、さまざまな症状が起こります。

わたしたちの肌には、水分が含まれています。皮膚の水分が減少すると、皮膚がスカスカの状態となって外からの刺激に弱くなります。

このとき脂はアブラであるため、水と混ざりません。そのため皮膚を皮脂が覆っていると、皮膚内の水分が蒸発しにくくなります。つまり皮脂には、皮膚の水分量を保つ役割があるのです。

そのためウォシュレットなどによって皮脂を洗い流しすぎてしまうと、皮膚の水分が蒸発しやすくなります。そうすると、皮膚が弱くなって裂けたり腫れたりしやすい状態となります。このことから、肛門の皮脂を洗い流しすぎてしまうと痔になりやすくなることがわかります。

ウォシュレットなしでは排便できない人は要注意

便は小腸や大腸などを通過して肛門へと運ばれ、やがて排出されます。ただ便はいつでも勝手に排出されるわけではありません。便が排出される前には便意が起こり、それに応じてわたしたちが「排便をしよう」とすることによって排出されます。

このような便意は、直腸に便が入ったときの刺激によって起こります。

便意が起こると、内側の肛門括約筋が開いて排便しやすい状態となります。また腸の働きが活発になり、直腸内に便が送り込まれやすくなります。このようにして体内の便をスムーズに排出しようとします。

そしてこのような仕組みは、便秘薬の一種である浣腸に利用されています。

浣腸とは肛門内に薬剤を入れて排便を促す便秘薬です。浣腸はスポイト状の容器が採用されており、中にはグリセリンが入っています。

グリセリンは化粧品などにも使用される薬剤であり、排便を促す直接的な効果はありません。浣腸は直腸に異物を入れて刺激し、便意を起こすことによって排便を促すのです。

このときウォシュレットは、肛門部分に温水がピンポイントで当たるように設計されています。そのため水圧によっては、ウォシュレットによる温水が肛門内へ入り込むことがあります。

温水が肛門内へ入ると、浣腸を使ったときと同様に便意が起こります。そのためウォシュレットを使う人の中には、排便を起こすために温水洗浄機能を使う人がいます。

ただウォシュレットをこのようにして使っていると、ひどい便秘が起こりやすくなります。

浣腸やウォシュレットなどによって直腸に刺激を何度も与えていると、直腸が刺激に慣れてきます。そうすると、強い刺激を与えなければ便意が起こらなくなっていきます。

便意が起こらないと、体が「排便モード」になりません。そのためいくら排便しようと意識しても、排便できなくなっていきます。

このようなことからウォシュレットによって排便を促していると、ウォシュレットなしでは排便できなくなることがわかります。このような状態はウォシュレット依存症と呼ばれています。

当然のことながら、排便ができなくなると腸内に便が溜まっていきます。つまり便秘になるということです。そして便秘は、痔の発症・悪化の主な原因の1つです。

便秘になると便に含まれる水分が腸に吸収されて便が硬くなりやすくなります。

便が硬くなると、強くいきまなければ排便できなくなります。ただ排便時に強くいきむと、肛門部分がうっ血していぼ痔が起こりやすくなります。

また硬い便を無理やり排出しようとすると、肛門が広がりきれずに裂けやすくなります。つまり切れ痔が起こりやすくなるということです。

さらに便秘は、痔を発症させるだけではなく悪化の原因にもなります。

例えば強くいきむ回数が増えると、その分だけ肛門がうっ血しやすくなります。そうすると、いぼ痔がどんどん大きくなって治りにくくなっていきます。

また切れ痔を生じている部分は、他の部分よりも弱い状態になっています。そのため便秘によって硬い便を無理やり排出すると、切れ痔部分の傷が深くなっていきます。

切れ痔の傷が深くなって潰瘍(かいよう)となると、自然には治らなくなります。また何度も切れ痔を繰り返すと、肛門の皮膚部分が狭くなっていって肛門狭窄を発症します。

このように、便秘は痔の発症や悪化などを招きます。そのためウォシュレットによって便秘になると、痔が発症したり悪化したりしやすくなるのです。

温水を勢いよく放出すると…

勢い良く放出される水には、汚れを落とす力があります。

実際に高圧洗浄機では、高い圧力をかけて水を放出する機械です。これによって壁や車などに付着した汚れを吹き飛ばしていきます。

このときウォシュレットでは、水が出てくる勢いを選ぶことができます。そのため高圧洗浄機の能力を知っている人の中は、「水の勢いが強いほど汚れが落ちる」と思って水圧を最大にする人がいます。

ウォシュレットは肛門をキレイにするために設計されています。そのため健康であれば、水圧を最大にしてウォシュレットを使用しても皮膚が切れることはありません。

ただ前述のようにウォシュレットなどで肛門を洗いすぎると、肛門が弱くなって切れやすくなります。また治りかけの切れ痔は弱く脆い状態となっています。

このような状態の肛門に勢い良く温水を噴射すると、水に負けて皮膚が裂けてしまうことがあります。つまりウォシュレットの温水によって切れ痔が起こるということです。

また高圧洗浄機が頑固な汚れを落とすのと同様に、強すぎる勢いの水は肛門の健康維持に必要な常在菌や皮脂なども取り除いてしまいます。

これらがなくなると痔になりやすいということは、前述のとおりです。したがってウォシュレットの水圧を強くすると、皮膚が弱くなって痔が起こりやすくなります。

痔を発症・悪化させないウォシュレットの使い方

前述のようにウォシュレットで肛門を洗いすぎたり排便を促したりしていると、痔が発症・悪化しやすくなります。

ただこれは、ウォシュレットそのものが痔の発症・悪化原因となっているわけではありません。ウォシュレットで痔が発症したり悪化したりしやすくなるのは、ウォシュレットの使い方が間違っているためです。

また排便後に肛門を拭かずにそのままにしておくと、かゆみを生じることからわかるように、便には痔の原因となる物質・細菌が含まれているのは事実です。そのため痔の発症や悪化などを防ぐためには、ウォシュレットの正しい使い方を知ることが大切です。

水圧に注意する

ウォシュレットで噴出する水の勢いは調整できます。そして痔を予防したいのであれば、水圧をなるべく弱くしてウォシュレットを使用するべきです。

前述のように勢いが強い水を肛門に噴射すると、切れ痔が起こりやすくなります。また肛門に必要な常在菌や皮脂などが洗い流されて痔を発症しやすい状態となります。

さらに水圧を強くすると、肛門内に水が入り込みやすくなります。そうすると直腸が刺激を受けて排便が起こりやすくなります。

これを繰り返すと、ウォシュレットなしでは便意が起こらなくなり、ひどい便秘になりやすくなります。このようなことから、ウォシュレットを使う際には水圧をなるべく低くすることが大切です。

このとき普段水圧を高くしてウォシュレットを使っている人は、水圧を低くしたときに汚れが落ちていないような気分に陥ることがあります。

ただ高すぎる水圧で肛門を洗浄すると痔になりやすくなるのは事実です。そのため低い水圧で洗うことに不潔な印象を覚えて水圧を高くしたくなっても、ぐっと我慢するようにしましょう。

頻度と時間に注意する

ウォシュレットの温水洗浄機能は、排便後の肛門を洗うための機能です。ただウォシュレットを使う人の中には、排尿時にもウォシュレットを使う人がいます。

またウォシュレットの温水洗浄機能は、ボタンを押す操作によって使用時間を自分で決めることができます。そのためウォシュレットを使う人の中には、数十秒もの間肛門を洗い続ける人がいます。

ただウォシュレットを使う頻度や時間などが多くなると、その分だけ肛門付近の常在菌や皮脂などが洗い流されやすくなります。そうすると、痔になったり痔が悪化したりしやすくなります。

そのためウォシュレットは排尿時には使わずに、排便時のみに使うことが大切です。またウォシュレットで肛門を洗う際には数秒温水を当てる程度に控え、長時間洗い続けないようにしましょう。

ウォシュレット依存症を治すためには?

これまでに述べたようにウォシュレットの使い方を間違えると、痔が発症・悪化しやすくなります。そのためウォシュレットは、正しい使い方で使ったり最低限の使用に留めたりすることが大切です。

このときすでにウォシュレット依存症を発症している人は、ウォシュレットなしでは排便できないため、ウォシュレットを正しい使い方で使おうと思ってもできないのが現実でしょう。

ただウォシュレットなしで排便できなくなるということは、「ウォシュレットがない環境に置かれるとひどい便秘になる」ということを意味します。

海外は日本に比べて、ウォシュレットが少ないです。また日本であっても、場所によってはウォシュレットがないビルやホテルなどがあります。

このことからウォシュレット依存症を発症していると、健康的に滞在できる場所が限定されることがわかります。そのためウォシュレット依存症になっている人は、なるべく早く症状を改善することが大切です。

ウォシュレット依存症を治すためには、腸の働きを正常化させる必要があります。腸は胃に食物が入ることによって動きやすくなります。特に朝食を摂ると休んでいた胃に刺激が加わるため、排便が促されやすくなります。

そのためウォシュレット依存症を治すためには、毎朝しっかり朝食を摂るようにすることが大切です。また朝食後に排便のための時間が取れるように、早起きを心がけるようにしましょう。

そして健康的な排便を習慣づけるためには、食物繊維の多い食品を積極的に摂ることが大切です。

食物繊維とは野菜や果物などの植物性食品に含まれている成分です。食物繊維には大きく分けて、「水に溶ける食物繊維」と「水に溶けない食物繊維」があります。

これらはどちらも、便秘を改善する働きがあります。ただすでに重症な便秘になっている場合、水に溶けないタイプの食物繊維を大量に摂ると腸に詰まってしまうことがあります。

ウォシュレット依存症では自力で排便できないため、特段の注意を払うことなくウォシュレット依存症を治そうとすると便秘が起こりやすくなります。そのためウォシュレット依存症を治す際には、水に溶けるタイプの食物繊維を積極的に摂り、水に溶けないタイプの食物繊維は適量に抑えることが大切です。

水に溶けるタイプの食物繊維は、海藻や果物などに多く含まれています。そのため健康的な排便習慣を取り戻したいのであれば、これらの食品を多めに摂るようにしましょう。

まとめ

肛門に残りがちな目に見えない汚れは、痔を発症・悪化させます。そしてこのような汚れはトイレットペーパーだけでは落としづらいです。そのため痔を防ぐためには、ウォシュレットで肛門を洗うことが大切です。

ただウォシュレットで肛門を洗いすぎると、痔を防ぐどころかかえって痔が発症・悪化しやすくなります。

またウォシュレットを排便のために使うと、ウォシュレットなしでは排便できなくなります。そうするとウォシュレットのない環境に行った時に重症な便秘を起こし、痔を発症しやすくなります。

このようなことからウォシュレットは、これまでに述べたような正しい使い方で使うようにしましょう。そうすることで、健康的な肛門を維持することができるようになります。