日本では昔から、痛みが起こったら温めたり冷やしたりして症状を緩和しようとする慣習があります。

例えば筋肉のコリによって首や肩などが痛んだら、多くの人が痛い部分を温めます。また足をくじいたり関節を痛めたりしたときなどは、冷やされることが多いです。

実際にドラッグストアなどでは、体の一部分を温めたり冷やしたりするための商品が数多く取り扱われています。そしてこの中には、医薬品ではないものもあります。

直接的に痛みを軽減する成分は、医薬品にしか配合することができません。例えば湿布などの貼り薬には、フェルビナクやジクロフェナクなどの痛みを軽減する成分が含まれています。

一方で医薬品以外の商品には、痛みを軽減する成分は含まれていません。このようなことから温めたり冷やしたりすることには一定の効果があることがわかります。

そして痔も、温めたり冷やしたりすることによって症状が軽くなります。ただこのとき温めるべき痔を冷やしたり、冷やすべき痔を温めたりすると、症状が軽くなるどころかかえって悪化することにつながります。

では温めた方がいい痔、また冷やした方がいい痔とはどのようなものなのでしょうか? また痔は、どのようにして温めたり冷やしたりすればいいのでしょうか?

そこでここでは痔の特徴や対処法などについて解説し、具体的な温め方や冷やし方などについて述べていきます。

痔は温めるべきか冷やすべきか?

痔にはいぼ痔(痔核)と切れ痔(裂肛)、あな痔(痔ろう)などがあり、それぞれ原因や病態などが異なります。そのため痔の症状を軽くする手段は、痔の種類によって異なります。つまり「痔は温めるべきである」もしくは「痔は冷やすべきである」などとは断言できません。

ただ基本的には、患部が熱をもっている場合は冷やす方がいいとされています。そのため痔の患部が熱を帯びている場合は、肛門やおしりなどを冷やすことが推奨されます。

また肩こりなどの「血行不良が原因となっている症状」は、温めるべきであるとされています。これは組織を温めると血液の流れが良くなるためです。

温めたほうがいい痔

人体が生きていくためには、一定の体温を保つ必要があります。そのためわたしたちの体には、体温を一定に保つための機能が備わっています。

例えば体が熱くなると、体表近くの血管が拡張して血流が増えます。これは体の内側の熱を外に放出しようとするために起こる現象です。体表近くの血流が増えると、体の内側から運ばれてきた熱が外に逃げやすくなります。

一方で寒い場所に行くと、体の表面の血管が収縮して血流が少なくなります。体の内側の熱をなるべく逃さないようにするためです。このようなことから体が温まると血管が拡張し、体が冷えると血管が収縮することがわかります。

このときいぼ痔や切れ痔などは、血行不良によって起こりやすくなります。

例えばいぼ痔は、肛門組織にうっ血が起こることによって発症する病気です。そのため肛門部分に血行不良が起こると、その分だけ肛門組織のうっ血=いぼ痔が起こりやすくなります。

また肛門の皮膚への血流が減少すると、皮膚が酸素や栄養などを受け取りにくくなります。そうすると皮膚の弾力性が低下して、裂けやすくなります。つまり切れ痔を生じやすくなるのです。

一方で血行が良くなると、その分だけうっ血が解消されやすくなります。また皮膚の弾力性が保たれたり傷の治りが早くなったりします。そのためいぼ痔や切れ痔などは、温めて血行を良くすることによって症状が改善しやすくなります。

またおなかが冷えて下痢になった経験がある人は多いでしょう。これは、おなかが冷えることによって腸の動きが過剰になるためです。

さらにおなかが慢性的に冷えていると、血行不良によって腸の働きが低下して排便が起こりにくくなります。その結果、便秘が起こりやすくなります。

そして便秘や下痢などは、いぼ痔と切れ痔の大きな原因の一つです。

例えば便秘になると、排便時に強くいきまなければならなくなります。強くいきむとその分だけ、肛門組織がうっ血を起こしやすくなります。そのため便秘になると、いぼ痔を発症しやすくなります。

また便秘によって便が固くなると、便が肛門を通りにくくなります。そうすると肛門が広がりきれずに裂けやすくなります。

一方で下痢になると、排便姿勢を取る機会が増えます。排便の姿勢は肛門に血液が流れ込みやすいポーズです。そのため便秘だけではなく下痢も、いぼ痔の原因となります。

そして下痢によって便の水分量が増えると、便が肛門を勢いよく通過するため肛門が裂けやすくなります。そのため下痢になると切れ痔を生じやすくなります。

このように便秘や下痢などは、いぼ痔と切れ痔の原因になります。そのためいぼ痔や切れ痔などの症状が現れている場合は、痔の患部だけではなく腹部も温めて便秘・下痢が起こらないようにすることが大切です。

冷やしたほうがいい痔

いぼ痔と切れ痔が温めると症状が軽くなる一方で、あな痔は温めることによって症状が悪化する痔です。

あな痔とはおしり内部やおしりの皮膚、腸などに膿の通り道(穴)ができる痔です。あな痔は肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)が進行することによって発症します。

肛門周囲膿瘍とはおしり内部の組織が細菌感染を起こして膿が溜まる病気です。膿が溜まっている部分には炎症が起こります。

炎症には痛みやかゆみ、発熱などの症状を伴います。そのため肛門周囲膿瘍やあな痔などを発症すると、痛みや発熱などが起こります。

基本的に炎症は、温めることによって悪化します。そのためあな痔や肛門周囲膿瘍などが起こっている状態で患部を温めると、痛みや熱などが悪化します。

また化膿している組織を温めると、膿の生成が促されます。そのためあな痔や肛門周囲膿瘍が起こっている患部を温めると、化膿が悪化します。

化膿が悪化すると、それに伴い炎症も悪化します。そのためあな痔や肛門周囲膿瘍などの症状が出ているのであれば、患部を温めないように注意しましょう。またおしりを温めると痛みが起こったという場合は、温めるのを中止することが大切です。

一方で化膿や炎症などは、冷やすことによって症状が軽減します。そのためあな痔や肛門周囲膿瘍などは、患部を冷やすことによって痛みや熱感などが軽減しやすいです。

したがってあな痔や肛門周囲膿瘍などは、冷やしたほうがいい痔であるといえます。

温めたり冷やしたりしても痔が改善しないのはなぜか?

基本的に痔の症状は、適切に温めたり冷やしたりすることによって症状が軽くなります。ただこれは、「痔という疾患そのものが改善する」ことを意味するわけではありません。

例えばあな痔は、自然治癒しない病気です。肛門周囲膿瘍を放置しておくと、溜まった膿がおしり内部を流れ進んでいって肛門皮膚などに穴を開けます(あな痔)。そしてこのような穴は、自然に消えることはありません。

そのためあな痔を治すためには、病院で適切な処置を受ける必要があります。したがってあな痔を冷やすと症状が軽くなるものの、あな痔自体が改善することはないのです。

またいぼ痔や切れ痔などの原因の一つは、血行不良です。そのためこれらの痔は、温めて血行を促進することによって痔そのものが改善しやすくなります。

ただ前述のようにいぼ痔と切れ痔は、便秘や下痢などによっても起こりやすくなります。そしてこれらの排便異常には、生活習慣が深く関与しています。

例えば肉や揚げ物などばかり食べて野菜の摂取量が少なくなると、腸内の環境が悪くなって便秘が起こりやすくなります。

またお酒や香辛料の多い食べ物などを多く摂っていると、下痢が起こりやすくなります。そのためこのような食生活を送っている人は、痔の患部や腹部などを温めても痔が改善することは期待できません。

また強いストレスや睡眠不足などは、排便の異常を引き起こしやすくします。そのためストレスや疲労などが溜まっている人は、温めるだけでは痔が改善しない可能性が高いです。

このようなことから痔を根本から改善するためには、痔の患部を温めるだけではなく生活習慣を見直す必要があるのです。

さらに「温めてもいぼ痔が改善しない」と思っている人の中には、いぼ痔ではない肛門の出来物を生じているケースがあります。

切れ痔が深くなると、切れ痔の周辺に炎症が起こります。そうすると炎症性のポリープ(肛門ポリープ)や見張りいぼなどができることがあります。

これらは切れ痔による組織の炎症によって、組織が膨らむことによって生じます。ただ炎症が治まっても、一度できた膨らみが治ることはありません。

例えば見張りいぼの炎症が収まると、見張りいぼは小さくなっていきます。ただ一度伸びた皮膚がもとに戻ることはありません。そのため見張りいぼの炎症が収まると、皮膚のたるみが肛門に残ります。これを肛門皮垂(こうもんひすい)やスキンタグなどといいます。

肛門ポリープや見張りいぼなどは、肛門組織に生じます。そのためこれらができると、多くの人がいぼ痔と勘違いします。

そしてこれらは一度できると完全になくなることはないため、肛門を温めても改善しません。したがって「いぼ痔を温めても治っていかない」と思っている人は、肛門ポリープや見張りいぼなどを生じている可能性があるのです。

肛門ポリープや見張りいぼなどはどちらも、治療しなくても問題のない症状です。ただこれらを治療したい場合は、病院での処置を受ける必要があるということを認識しておきましょう。

痔の温め方と冷やし方

前述のように痔は、温めたり冷やしたりすることによって症状が軽くなります。そのため痔の症状に苦しんでいる人は、自分の痔の症状を見極めた上で温めたり冷やしたりすることをおすすめします。

このとき昔は、温めるといえば蒸しタオルが基本でした。また冷やす際には、氷のうが使われました。実際にこれらを使うと、患部を効果的に温めたり冷やしたりすることができます。

ただこれらを使うためには、自宅や病院などの安静にできる環境にいる必要があります。そのため忙しい現代人は、このような方法で患部を温めたり冷やしたりできないことが多いです。

しかしながら現在では、さまざまなものを使って痔の患部を温めたり冷やしたりすることができます。そのため自宅などで安静にできない場合は、以下の内容を参考に痔を温めたり冷やしたりしてみましょう。

痔の患部はどのようにして温めたらいい?

痔の患部を温めるには、使い捨てカイロ(ホッカイロやホカロンなど)を使用するのが効率的です。

このとき、いぼ痔や切れ痔などの患部は肛門です。そのためこれらによる痛みが強い場合は、カイロを肛門近くに当てるのが効果的です。

例えば立ち仕事が多い人は、貼るタイプのカイロを下着のお尻部分に貼りましょう。そうすることで肛門を効果的に温めることができます。

ただ下着が薄いと、カイロの熱によって低温やけどを起こしやすくなります。そのためカイロを貼る場合には、下着を重ね履きしてカイロの熱がおしりに伝わりすぎないようにすることが大切です。

またカイロを貼る位置が股部分に近くなると、カイロが折れ曲がって剥がれやすくなります。そのため痔の患部にカイロを当てる際には、股部分にかからない位置に貼ることをおすすめします。

しかしながらこのとき座っていることが多い人が下着にカイロを貼ると、カイロの熱が逃げずに温度が高くなり、やけどを起こすリスクが高くなります。そのため座り仕事をしている人などは椅子の上にカイロを置き、その上に座るようにしましょう。

さらに痔の改善のためには、腰や腹部などにカイロを当てることもおすすめです。そうすることによって下半身の血行が改善されて、痔の症状が緩和しやすくなります。

そして痔の患部を温めるには、市販の温熱シートを使うという手もあります。このような商品は、カイロに比べて低温やけどを起こしにくい設計となっています。

このとき温熱シートは、カイロよりも割高です。そのため温熱シートを使うと、カイロを使用するときよりも経済的な負担がかかります。

ただ温熱シートはカイロよりも薄く、ごわつきにくいというメリットもあります。そのため温熱シートは、肌に密着するボトムスを履くときなどに有用だといえます。

いぼ痔などの改善には全身を温めることも大切

血管は全身で輪のようにつながっています。そのため一部の組織で血行不良が起こると、全身の血液の巡りが悪くなりやすいです。このことからいぼ痔や切れ痔などを改善するためには、痔の患部だけではなく全身を温めることも大切です。

例えばお風呂に入ると、全身が温まって血液の巡りが良くなります。そのため入浴をシャワーで済ませがちな人は、毎日湯船に浸かるようにするといぼ痔や切れ痔などの症状が改善しやすくなります。

またのぼせにくい体質であれば、サウナの利用もおすすめです。サウナに入ると体が芯から温まりやすくなり、血行がいい状態が長続きしやすくなります。

ただサウナは体だけではなく、頭も直接的に温めます。そのためサウナはお風呂よりものぼせやすいです。そのためサウナに入る際には、水分を補給したり頭を冷やしたりなど、のぼせ対策をするようにしましょう。

妊婦や産後などの女性や体調不良の人は、普段よりものぼせやすい状態となっています。そのためこのような人は、普段のぼせにくい体質であってもサウナを避けることが大切です。

痔はどのようにして冷やすのが効率的なのか?

あな痔の症状がひどく早急に症状を改善したい場合は、氷水を入れた袋をお尻に当てることをおすすめします。このときお尻を冷やす氷水は、水を多めにしましょう。そうすることで氷水がお尻全体に触れやすくなり、効率よく患部を冷やすことができます。

氷水を当てておくことが難しい場合は、凍らせた保冷剤をハンカチなどに包んで下着の中に入れておきましょう。このとき下着を二重に履いて下着の間に保冷剤を入れておくと、お尻全体が冷やされやすくなります。また凍傷を起こすリスクも低くなるため安心です。

外出中などにあな痔の痛みがひどくなった場合には、熱中症対策の商品を使ってみることをおすすめします。

このような商品の中には、氷を作るスプレーや瞬間冷却剤などがあります。氷を作るスプレーを使用する場合は、スプレー剤をたっぷり噴射したハンカチを下着の中に入れましょう。そうすることでお尻を長時間冷やすことができます。

また氷を肌に直接当てると、凍傷が起こる危険性があります。そのため「あな痔の患部が痛いから、すばやく冷やしたい」と思っても、氷を直接肌に当てるのは避けましょう。

また瞬間冷却剤とは「冷たいカイロ」のようなものです。そのためこれを下着の中に入れると、すばやく簡単にお尻を冷やすことができます。

瞬間冷却剤の中には、硝酸アンモニウムなどの薬品と水を包んだ袋が入っています。これらが触れると化学反応が起こり、冷却剤の温度が下がります。そのため瞬間冷却剤は、叩いたり揉んだりして内部の袋を破ることによって冷却剤の効果を発揮します。

このとき内部の水を包んだ袋がなくなるまでは、衝撃によって冷却剤が冷えます。そのため瞬間冷却剤が温かくなってきたら、再度衝撃を与えて使用しましょう。

なお発熱の際に使用される冷却シート(冷えピタなど)は、お尻を冷やすのには向きません。これは冷却シートの冷却効果が氷水などに比べて低いためです。

また冷却シートは、ジェルに含まれる水分が蒸発することによって皮膚から体温を奪います。ただ下着の中は蒸れており、湿度が高いことが多いです。

湿度が高い環境ではジェルに含まれる水分が蒸発しづらいです。つまり冷却シートは、下着の中では本領発揮できないのです。したがってお尻を冷やす場合には、冷却シートではなく保冷剤などを使用することをおすすめします。

まとめ

痔にはいくつかのタイプがあり、それぞれ原因や病態などが異なります。そのため一概に痔といっても、対処法はそれぞれ異なります。

例えばいぼ痔や切れ痔などは、温めることによって症状が改善します。これに対してあな痔は、温めると痛みや化膿などが悪化します。あな痔を発症した場合は、患部を冷やすべきなのです。

したがって痔を温めるべきか冷やすべきか悩んだら、まずは自分の痔のタイプを正しく認識することが大切です。

そして痔の症状がつらくなったら、これまでに述べたような手段を参考に、痔を温めたり冷やしたりしてみましょう。そうすることによって痔のつらい症状が軽くなり、痛みなどによる苦しみから開放されやすくなります。