「痔で病院にかかると手術される」と思っている人は多いです。実際に一昔前までは、病院での痔の治療といえば痔を切除するのが当たり前でした。

ただ現在では、痔は切らずに治すのが基本となっています。特に、いぼ痔の切らない処置方法はかなり多く存在しており、ほとんどのいぼ痔は切除せずに治すことができます。

そんな中、いぼ痔の切らない外科処置の1つである硬化療法は、手軽に行えて一定の効果を得られる治療法として人気があります。ただ硬化療法にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットやリスクなどもあるのが事実です。

そこで、ここでは硬化療法でいぼ痔が治療できる理由と硬化療法のメリットやデメリット、費用などについて解説していきます。

いぼ痔の治療で行われる硬化療法とは?

硬化療法とは、肥大化した状態の患部に「血管を硬くする薬剤」を注入する治療方法のことです。このような治療方法はいぼ痔だけではなく、静脈瘤(静脈に血液が溜まって血管が膨らむ病気)などに利用されています。

一般的なイメージでは、血管が硬くなると病気の治りが遅くなるように感じます。そのため、「硬化療法はいぼ痔の治療に効果がある」といわれても、ピンと来ない人が多いでしょう。

しかしながら、硬化療法は多くの肛門科病院で採用されているいぼ痔の治療法です。

硬化療法がいぼ痔を治療するメカニズム

いぼ痔(痔核)とは、肛門クッションと呼ばれる組織がうっ血を起こした状態のことを指します。

肛門クッションとは肛門付近と肛門内部に存在している組織であり、便が漏れ出るのを防ぐ役割を担っています。このことから、肛門クッションはしばしば水道のパッキンに例えられます。

肛門クッションがうっ血を起こすと、血液が過剰に溜まることによって腫れ上がります。そうすると、腫れた部分が「ぷにぷにとしたできもの=いぼ痔」になります。

このような症状は、「肛門クッションに流れ込む血液>肛門クッションから流れ出ていく血液」になると起こります。そのため、肛門クッションに流れ込む血液が少なくなったり、肛門クッションから流れ出ていく血液が多かったりすると、いぼ痔が小さくなります。

硬化療法では、患部に硬化剤という薬剤を注入します。硬化剤には血管を硬くして血液が流れにくい状態を作る作用があります。

そのため、いぼ痔内に血液を送り込んでいる血管(動脈)付近に硬化剤を注入すると、血液が流れ込みにくくなることによっていぼ痔が小さくなっていきます。

このようにしていぼ痔が小さくなると、いぼ痔が肛門から脱出することがなくなります。このことから、硬化療法にはいぼ痔を治療する効果があることがわかります。

硬化療法はどのようないぼ痔に使える?

いぼ痔(痔核)には、大きく分けて内痔核と外痔核の2種類があります。

内痔核とは、肛門内側に存在している肛門クッションが腫れた状態のことです。これに対して外痔核とは、肛門外側の肛門クッションが腫れた状態を指します。

外痔核を生じる部分には痛覚があります。そのため外痔核には、日常生活が困難になるほどの痛みを伴います。

一方で、内痔核を生じる肛門クッションには、痛覚がありません。そのため、内痔核自体には痛みがありません。

内痔核が進行すると、肛門からいぼ痔が飛び出してくるようになります。そうすると、痛覚がある部分にいぼ痔が触れることになるため、痛みが発生します。

ただ、外痔核による痛みは進行した内痔核よりもかなり強いです。そのため、動けなくなるほど強い痛みが生じているいぼ痔は外痔核であるといえます。

これら2つのいぼ痔のうち、硬化療法が利用できるのは内痔核のみです。これは、外痔核に硬化剤を注入すると痛みが発生するためです。

硬化剤は血管周辺に炎症を起こすことによって血管を硬くします。通常、炎症には痛みを伴います。ただ、内痔核を生じる部分には痛みを感じる神経がないため、硬化療法によって痛みを感じることはありません。

これに対して、外痔核を生じる部分には痛覚があります。そのため、外痔核に硬化剤を注入して炎症を起こすと、耐え難いほどの痛みが発生・継続することになります。

このような状態は治療として適切ではありません。そのため、硬化療法は痛みを感じない内痔核にしか行われません。

硬化療法の種類

内痔核にはⅠ~Ⅳ度の進行度があります。これらのうち、Ⅰ・Ⅱ度の内痔核を硬化療法で利用する際は、フェノールアーモンドオイルを配合した硬化剤が使用されます。

一方で、Ⅲ・Ⅳ度の内痔核を硬化療法で治療する場合は、硫酸アルミニウムカリウムタンニン酸(ALTA)を使用します。

フェノールアーモンドオイルとALTAはどちらもいぼ痔を硬くする硬化剤です。ただ、ALTAはフェノールアーモンドオイルに比べて効果がかなり高く、その効果も半永久的に続きます。

そのため、ALTAを利用する硬化療法はALTA療法またはジオン注と呼ばれ、フェノールアーモンドオイルを利用するタイプと区別されるのが一般的です。

一方で、いぼ痔治療において「硬化療法」という単語のみで表現されている場合は、フェノールアーモンドオイルを注入する治療方法を指すことがほとんどです。このようなことから、この記事では「硬化療法=フェノールアーモンドオイルを注入する治療法」として記述しています。

硬化療法のメリットとデメリット

これまでに、硬化療法がいぼ痔(内痔核)を治す仕組みについて述べてきました。そのため、ここまで読んでいれば、硬化療法がいぼ痔治療の選択肢に入るようになっているかと思います。

ただ、治療内容のメリットやデメリット、リスクなどを知らないまま治療を受けると、治療結果に納得できなかったり後悔したりすることになりかねません。そのため、硬化療法でのいぼ痔治療を考えているのであれば、以下の内容をしっかり理解しておくことが大切です。

硬化療法のメリット

硬化療法は患部に注射をするだけで治療が終わります。そのため、硬化療法にかかる時間は15分程度とかなり短く、治療後に即日帰宅して普段通りの生活を送ることができます。

治療時間が短いと、その分だけ通院にかかる時間が少なくて済みます。そのため、時間がかからないという点は、仕事や育児などで忙しい人にとっては大きなメリットとなります。

また、治療後すぐに元の生活に戻れるということは、入院の必要性がないことを意味します。そのため、硬化療法では入院によって費用がかさむことがありません。

さらに、硬化療法には痛みを伴いません。このような点は、痛みが苦手な人にとってメリットになるだけではなく、麻酔代や薬代などの節約にもなります。

そして硬化療法は、出血量の多いいぼ痔に向いた治療法であるとされています。

通常、いぼ痔の表面はもろくなっているため、軽い刺激で容易に出血します。いぼ痔の中には大量の血液が詰まっているため、いぼ痔から出血するとトイレの中が真っ赤に染まるほどの出血量となります。

このとき、硬化療法が行われるといぼ痔に流れ込む血液の量が少なくなります。そうすると、出血量が減るだけではなく、いぼ痔自体が硬くなって出血が起こりにくくなります。

そのため、硬化療法でいぼ痔を治療すると、出血が止まって貧血などが起こりにくくなるというメリットがあります。

硬化療法のデメリット

フェノールアーモンドオイルを使用する硬化療法は、持続期間が短いです。具体的にいうと、注射をしてから数ヶ月~1年で薬剤の効果が切れます。

痔は生活習慣によって生じる病気です。そのため、硬化剤の硬化が持続している間に「痔になりにくい生活習慣」が身についていると、注射の効果が切れた際にいぼ痔の再発が起こりにくくなります。

ただ、注射の効果が切れた後に痔になりやすい生活を送っていると、高い確率でいぼ痔が再発します。そのため、硬化療法でいぼ痔を再発させないためには、薬剤の効果が持続している間に生活改善をしっかり行う必要があります。

しかしながら、生活習慣を正すことは簡単ではありません。また、生活習慣を改善しても、職場環境や出産などの避けられない事情によっていぼ痔が再発することもあります。このことから、硬化療法はいぼ痔の根治術には該当しません。

また、硬化療法を繰り返すと、硬化剤の効果が次第に薄れていきます。そのため、硬化療法はあくまでも、いぼ痔の一時的な治療法であると捉えることが大切です。

硬化療法のリスク・副作用

硬化療法を繰り返し行うと、注射している部分が硬くなっていきます。そうすると、この部分にいぼ痔の再発が起こった際、「硬いいぼ痔」を生じることになります。

いぼ痔が硬くなると、ゴム輪結紮術での治療が行えなくなります。ゴム輪結紮術では、「輪ゴムをいぼ痔にはめてうっ血させる」ことによっていぼ痔を脱落させます。

このとき、いぼ痔が硬くなっていると、輪ゴムがうまくはまりません。そのため、硬化療法を繰り返すと、ゴム輪結紮術で治療できないいぼ痔を生じる危険性が高まります。

さらに、いぼ痔が硬くなると、その分だけメスなどによってきれいに切除することが難しくなります。硬化療法を行ったいぼ痔が再発して手術が必要な大きさまで進行した場合、切除手術が上手く行えなくなる危険性が生じるのです。

また、硬化剤を注入する部分が適切でないと、肛門に痛みや不快感などの副作用を生じます。まれに、肝臓や排尿などに障害が起こることもあります。そのため、硬化療法は確かな手技を持った医者に行ってもらうことが大切だといえます。

硬化療法が勧められるケースとは?

硬化療法はいぼ痔の根治術ではありません。そのため、いぼ痔をしっかり治したい人には向かない治療法です。

一方で、いぼ痔を治したいけれども治療のための時間を捻出できないという人や、持病などの理由によって切除手術が行えない人には、硬化療法が有効であるといえます。

さらに、硬化療法の止血効果はかなり高いです。そのため、硬化療法はいぼ痔からの出血量が多い人に勧められます。

また、硬化療法は切除手術などの際に出血しにくくなるように、補助的な役割で使用されることもあります。

硬化療法にかかる費用

硬化療法には痛みを伴わないため、入院や投薬などが必要となる治療に比べて費用がかかりません。しかしながら、具体的に必要となる費用がわからなければ、安心して病院に行くことができないかと思います。

また、いぼ痔の治療を考えている人の中には、痔が対象となる医療保険に加入している人もいるでしょう。このようなケースでは、硬化療法が医療給付金の対象となるかを知っておく必要があります。

硬化療法は保険の適用となる?

硬化療法は、健康保険の適用となります。そのため、病院で硬化療法を受けた場合、患者が負担するのは費用全体の3割(後期高齢者は1割)となります。

具体的にかかる費用は、病院で受けた診察などによって変動するため一定ではありません。ただ、病院で硬化療法を受けた場合、保険適用後4~5千円(後期高齢者は2千円未満程度)の負担となることが多いです。

・硬化療法は医療給付金の対象にはならない

医療保険の種類によっては、痔の手術をした場合に給付金が下ります。このときの手術とは、メスなどで患部を切り取る処置のことを指します。

硬化療法は注射でいぼ痔を治療するため、手術には相当しません。そのため、硬化療法を行っても医療給付金がもらえることはありません。

まとめ

このように、硬化療法は時間の面や費用面などでの負担が少なく、手軽に受けることができる処置方法です。

一方で硬化療法には、再発しやすかったり処置を繰り返すと治しづらいいぼ痔を発症しやすくなったりするなどのデメリットもあります。そのため、硬化療法の効果は一時的であると認識して、忙しいときなどのやむを得ない場合に利用するのが賢明です。

また、硬化療法による効果は6ヶ月~1年しか持続しません。しかしながら、この期間にいぼ痔が発症しにくい生活が身につくと、いぼ痔は再発しにくくなります。

そのため、硬化療法を行った後は、生活習慣を正すように気を配りましょう。そうすることで、いぼ痔の再発を起こりにくくして快適な毎日を送れるようになります。