一昔前までは、痔の治療といえば患部を切り取ることでした。

ただ現在では、痔を切らずに処置して治療するケースがかなり増えています。特に、いぼ痔(内痔核)は「切らない外科的処置」が多いタイプの痔です。

いぼ痔を治療する外科的処置の中でも、ゴム輪結紮術は治療効果が比較的高く、処置に伴う痛みがかなり少ないです。そのためこの治療方法は、手術などによる痛みを怖がる患者に多く使われています。

ただ、「結紮(けっさつ)」という単語は医療用語であり、一般的に使われることはありません。そのため、ゴム輪結紮術ではどのような処置方法が行われるかが想像しづらいかと思います。

では、ゴム輪結紮術とはどのような処置のことを指すのでしょうか? また、ゴム輪結紮術にはどのような特徴があり、どれくらいの費用がかかるのでしょうか?

そこで、ここではゴム輪結紮術について解説し、メリットやデメリットなどについて述べていきます。

ゴム輪結紮術とは何か?

ゴム輪結紮術の「ゴム輪」とは、輪ゴムのことです。そのため、ゴム輪結紮術は輪ゴム結紮術や輪ゴム結紮法などと呼ばれることもあります。

また結紮(けっさつ)とは、外科処置方法の1つであり、血管などの管を縛って管の中を内容物が通らない状態にすることを意味します。

このようなことからゴム輪結紮術とは、「輪ゴムで患部を縛って管内に何も通れない状態を作る処置である」ことが分かります。

ゴム輪結紮術では、ゴム輪結紮器という専用の器具を用いて治療を行います。

具体的には、まずゴム輪結紮器でいぼ痔(内痔核)をつまみ、器具内にいぼ痔を引き込みます。その後、引き込んだいぼ痔の根本に輪ゴムをはめてきつく縛ります。

そうすると、処置から1~2週間でいぼ痔が小さくなり、やがて便と一緒に体外へ排出されます。

ゴム輪結紮術が内痔核を治すメカニズム

肛門の内側や肛門付近などには、肛門クッションと呼ばれる組織が存在します。これは、水道管でいうパッキンのような役目を果たしている柔らかい組織です。

このとき、何らかの原因によって肛門クッションに多くの血液が流れ込むと、肛門クッションが腫れ上がります。これがいぼ痔(痔核)です。

血液には酸素や栄養素などを運んで組織の健康を保つ働きがあります。そのため、組織が新たな血液を受け取れなくなると、酸素・栄養不足によって正常な状態を保てなくなり、やがて壊死します。ゴム輪結紮術は、輪ゴムでこのような状態を作る処置方法です。

例えば、指先を輪ゴムできつく縛ると、縛った先が紫色に変色していきます。これは、輪ゴムによって血管が圧迫されて、指先まで新たな血液が届かない状態になっているためです。

この状態を長く続けると、やがて感覚がなくなっていき指先の細胞が死にます。組織が壊死すると、死んだ部分が生きている部分との結合を維持できなくなります。そうすると、枯れ葉が木から落ちるのと同様に、壊死した部分が取れることになります。

これと同様に、いぼ痔をゴム輪で結紮するといぼ痔に血液が流れ込めなくなります。そうすると、いぼ痔が壊死してやがて取れます。ゴム輪結紮術では、いぼ痔をこのようにして取り除きます。

ゴム輪結紮術には痛みを伴う?

指先に輪ゴムをきつくはめると、痛みを感じます。そのため、ゴム輪結紮術の手順を知ると、「この処置方法は痛そうだ」と感じることでしょう。

ただ実際には、ゴム輪結紮術にはほとんど痛みを伴いません。これは、輪ゴムをかけるいぼ痔(内痔核)には痛覚がないためです。

多くの人が知っているように、肛門付近には痛みを感じる感覚があります。ただ肛門の内側は、歯状線と呼ばれるところを超えるあたりから痛覚がなくなります。

2つある肛門クッションのうち、内側のものは歯状線よりも奥の方にあります。そのため、この部分が腫れて生じるいぼ痔には痛覚がなく、輪ゴムで縛っても痛みが発生しません。

ただ、ゴム輪結紮術ではいぼ痔を結紮器の中に引き込みます。このとき、内痔核のサイズや状態などによっては、歯状線より肛門側の組織が引っ張られることがあります。

この部分には痛覚があるため、引っ張られると痛みを生じます。そのためゴム輪結紮術には、このような「引っ張られる痛み」を伴うことがあります。

また、ゴム輪結紮術を行うためには、ゴム輪結紮器を肛門内に入れる必要があります。このとき、緊張していたり肛門括約筋が強かったりすると、肛門が硬く締まっていることがあります。

このような場合、医者が患者の緊張をほぐしたり肛門の滑りを良くしたりして痛みを感じないようにしてくれます。

ただ、医者の技量が悪かったり患者が痛みを感じやすい体質だったりすると、結紮器を挿入する際に痛みを感じることがあります。そのためゴム輪結紮術が行われる際には、なるべくリラックスして肛門の力を抜くように意識することが大切です。

術中に違和感はあるのか

前述のように、いぼ痔を輪ゴムで縛ってもいぼ痔が痛むことはありません。このとき、「痛みを感じないのは理解できるが、違和感くらいは生じるはずだ」と思う人は多いです。

確かに結紮するいぼ痔の位置によっては、違和感を覚えるケースがあります。ただ基本には、ゴム輪結紮術には痛みだけではなく、違和感も伴いません。これは、肛門の内側のいぼ痔には感覚がないためです。

感覚がない部分を輪ゴムで縛っても、縛られていると感じることはありません。そのためゴム輪結紮術を行っても、違和感が発生することはありません。

実際にゴム輪結紮術を行った人の中には、この処置を行ったということを忘れてしまう人が多いです。このようなことから、ゴム輪結紮術は処置に伴う苦痛がかなり少ない治療方法であるといえます。

ゴム輪結紮術の術後はどうなる?

輪ゴムで結紮した内痔核は、壊死してやがて取れます。このとき、いぼ痔が取れる際に痛みを感じることはありません。

そのため、ゴム輪結紮術を行った後には、「気付いたらいぼ痔が取れていた」となることが多いです。また、使用していたゴムも、いぼ痔が脱落する際に一緒に体外へ排出されます。

ただいぼ痔が取れるとき、まれに出血するケースがあります。この場合は、傷口から細菌感染を起こす危険性があるため、薬剤などによって正しい処置を行う必要があります

また人によっては、いぼ痔が脱落した後の傷がなかなか治らない人もいます。そのためゴム輪結紮術の後は、いぼ痔がなくなったからといって安心せず、術後の経過を病院で確認することが大切です。

ゴム輪結紮術の適用となるいぼ痔とは?

ゴム輪結紮術は患者の負担が少ない処置方法です。そのため、これまでの内容を理解した人であれば、ゴム輪結紮術で内痔核を治療したいと思うことでしょう。

実際に一度ゴム輪結紮術を体験すると、再発時もゴム輪結紮術で治療したいと思う人が多いようです。苦痛が少ないからです。

ただ、いぼ痔の切除手術はどのタイプのいぼ痔でも治療できるのに対して、ゴム輪結紮術はすべてのいぼ痔を治せるわけではありません。具体的にいうと、以下のようなタイプのいぼ痔はゴム輪結紮術で治療することができません。

ゴム輪結紮術で治療できないいぼ痔

ゴム輪結紮術を行う際には、器具内にいぼ痔を引き込みます。このとき内痔核が器具よりも大きいと、いぼ痔を引き込むことができないため輪ゴムをはめることができません。

また、いぼ痔が小さすぎたり硬かったりする場合も、輪ゴムをはめることができません。そのため、大きすぎたり小さすぎたり、硬かったりするいぼ痔はゴム輪結紮術の適用とはなりません。

さらに、いぼ痔の中には肛門外側に生じるタイプのものもあります、このようないぼ痔を外痔核といいます。

歯状線より内側には痛覚がない一方で、歯状線外側には痛覚があります。そのため、歯状線外側に生じる外痔核には、動けなくなるほどの強い痛みを伴います。

このようないぼ痔を輪ゴムで縛ると、悶絶するほどの痛みを生じることになります。

また、輪ゴムで結紮してからいぼ痔が脱落するまでには、1~2週間かかります。そのため、仮にゴム輪結紮術でいぼ痔を治療しようとすると、2週間程度も激痛に耐えることになります。このような状況は、治療として適切ではありません。

このようなことから、肛門付近に生じたいぼ痔はゴム輪結紮術で治療できないのです。

ゴム輪結紮術の適用となるいぼ痔は限定されている

ゴム輪結紮術は、「いぼ痔の大きさが輪ゴムをかけられるサイズである」必要があります。また、この処置方法は痛みを感じない内痔核にしか利用できません。

さらに、輪ゴムをはめるためには、いぼ痔が丸型である必要があります。そのため、ゴム輪結紮術の適用となるのは、大きすぎず小さすぎず、丸型の内痔核ということになります。

ただ、いぼ痔の状態は自分の目で見ることができません。そのため、ゴム輪結紮術で治療できるかどうかは、病院で診察を受けないとないとわかりません。このことから、ゴム輪結紮術で治療するつもりで病院に行っても、違う処置で治療することになることがあります。

また、病院でのいぼ痔治療の中には、注射でいぼ痔を硬くするという方法があります。いぼ痔が硬くなると輪ゴムがはめられなくなるため、この治療を行ったいぼ痔はゴム輪結紮術の対象外となることが多いです。

ゴム輪結紮術のメリットは?リスクはあるのか?

知名度では劣るものの、さまざまないぼ痔処置の中でもゴム輪結紮術は人気の高い治療方法です。実際にゴム輪結紮術の体験談を読んだいぼ痔患者は、「輪ゴムで痛みなしに治せるなら安心だ」と思うことが多いようです。

ただ、ゴム輪結紮術にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットやリスクなどもあります。そのため、ゴム輪結紮術の後に後悔しないようにするためには、これから述べるようなメリットやデメリット・リスクなどをしっかり理解しておくことが大切です。

ゴム輪結紮術のメリット

前述のように、ゴム輪結紮術は痛みを伴わない治療法です。これは、ゴム輪結紮術の最大のメリットといえます。

いぼ痔の切除手術では手術の際に麻酔を使用するため、手術中に痛みを感じることはありません。ただ、術後に麻酔が切れると、強い痛みが発生します。

そうすると手術に伴って入院する必要性が生じるため、仕事などを数日~数週間休む必要があります。また、日帰りで手術をしたとしても、手術当日は痛みで動けません。そして、術後翌日からは強い痛みを我慢しながら生活を送ることになります。

一方で、ゴム輪結紮術では痛みを伴わないため、術後すぐに活動ができます。そのため、ゴム輪結紮術のために仕事を長期間休むことはなく、痛みを我慢して生活する必要もありません。

また、入院のために仕事を休むためには、入院の理由を会社に伝える必要があります。さらに、数週間入院する場合は、家族だけではなく友人や恋人などに入院の事実を知らせなければいけないこともあります。

このとき、痔を公表するのは恥ずかしいと思っている人は多いです。このような人にとっては、入院理由を上司や恋人などに伝えるのが苦痛になるケースがあります。

そんな中、ゴム輪結紮術では入院が必要ないため、痔であることを誰かに報告する必要はありません。そのため、ゴム輪結紮術でのいぼ痔治療には、痔を報告するという精神的な苦痛も伴わないことになります。

そして、入院が必要ないということは、その分だけ費用がかからないということになります。このようなことから、ゴム輪結紮術の「痛くない」という点には、さまざまなメリットがあることがわかります。

ゴム輪結紮のデメリット・リスク

ゴム輪結紮術では、内痔核に輪ゴムをはめて血流を止めることによっていぼ痔を除去します。

このとき、血流が止まるのは輪ゴムがはまっている先の部分だけです。そのため、ゴム輪結紮術では、いぼ痔の根本の部分は残ることになります。

このような状態になると、残ったいぼ痔の部分が再び大きくなるリスクが生じます。このことから、ゴム輪結紮術はいぼ痔の根治術であるとはいえません。

また通常、いぼ痔が脱落した後の傷はしばらくすると治ります。ただこのとき、中には傷が治らずに何ヶ月も新しい粘膜ができないケースがあります。

粘膜がない部分は無防備な状態です。そのため、このような部分は刺激に弱く、痛みや出血などが起こりやすくなります。このような状態になると、入院手術が必要となります。

さらに、ゴム輪結紮術を受けた人の中には、傷が治る際に肉が盛り上がって不良肉芽というタコのような組織を生じるケースもあります。この場合、病院で再び不良肉芽を除去する処置を受ける必要があります。

ゴム輪結紮術の費用とは?

これまでに、ゴム輪結紮術の手法やメリット、デメリットなどについて述べてきました。そのため、ここまでの内容を理解した人の中には、ゴム輪結紮術による治療を検討していることかと思います。

このとき、治療を受ける上で気になることの1つに「必要となる費用」があります。

実際にどのような治療が行われるかは、病院で医者が診断するまでわかりません。そのため、治療にどれくらいの費用が必要なのかを明確にしていない病院は多いです。

しかしながら、どれくらいのお金が必要なのかがわからなければ、安心して病院に行くことはできません。そのため、実際にかかる費用は診察が終わるまでわからないといっても、事前に費用の目安を知っておくことは大切だといえます。

保険の適用となるのか

ゴム輪結紮術は健康保険の適用となる治療法です。そのため、ゴム輪結紮術で患者が負担する費用は、かかった費用全体の3割となります(後期高齢者は1割負担)。

具体的にいうとゴム輪結紮術には、3割負担で約6千円、1割負担で約2千円の費用が必要となります。このとき、いぼ痔の数が多ければその分だけかかる費用が多くなります。

さらに、術後の経過を見てもらったり薬をもらったりするために通院すると、その分だけ費用がかかることになります。ただその際にかかる費用は、高くても数千円程度です。

・保険による医療給付金は下りない

また、保険会社が販売している保険商品の中には、痔の手術が対象となっているものがあります。そのため、ゴム輪結紮術でいぼ痔を治療した人の中には、加入している保険から医療給付金がもらえると思っているケースがあります。

ただ、本来手術とはメスなどで患部を切る処置のことを指します。そのため、患部を切らずに治療するゴム輪結紮術は手術に該当しないため、医療給付金は下りません。

しかしながら、ゴム輪結紮術には医療給付金が必要になるほど高額な費用がかかるわけではありません。そのため、ゴム輪結紮術は患者の金銭的負担が少ない治療法といえます。

まとめ

ゴム輪結紮術は、処置中だけではなく術後も痛みを伴わない治療法です。そのためゴム輪結紮術は、患者の身体的負担や精神的負担などが少ない治療法といえます。

痛みを伴わなければ、それに応じて入院や薬の服用などの必要がなくなります。そのため、その分だけ出費が抑えられるため、患者の経済的負担も少ないです。

ただ、ゴム輪結紮術はいぼ痔の根治術ではないため、いぼ痔が再発するリスクを伴います。さらに、「ゴム輪結紮術で治療できるいぼ痔の種類は少ない」というデメリットもあります。

このことから、ゴム輪結紮術は患者が限定された治療法であり、術後の再発にも注意する必要があるといえます。

ゴム輪結紮術での治療を考えているのであれば、このようなデメリットやリスクなども踏まえて医者に相談するようにしてみましょう。そうすることで、納得して治療を受けることができ、術後に後悔することがなくなります。