妊娠中は痔になりやすい時期です。そのため妊娠前に痔を生じていると、妊娠中に痔が悪化することが多いです。また妊娠前に痔を生じていなかった人であっても、妊娠中に突然痔を発症することは珍しくありません。

痔には大きく分けていぼ痔と切れ痔、あな痔の3種類があります。これらのうち、あな痔は自然治癒しない病気であるため、あな痔を発症したら手術が必要となります。

一方で、いぼ痔と切れ痔は自力で治すことができる病気です。そして、妊婦がかかりやすいのはいぼ痔と切れ痔です。そのため妊婦に生じた痔のほとんどは自分の力で治すことができます。

ただ痔の症状の中には、日常生活が困難になるほどつらいものもあります。

妊娠中には痔だけではなく、さまざまな不快症状が起こりやすいです。このような不調に痔の症状が加わると、妊娠生活がつらく苦しいものになってしまいます。そのため妊娠中に痔を発症した人の中には、病院にかかることを検討するケースがあります。

ここで、妊娠中に風邪で病院に行くと、産婦人科の担当医に診てもらうように指示されることがあります。

これはおなかの中で赤ちゃんを育てるために、妊婦の体が特殊な状態になっているためです。そのため、内科や耳鼻咽喉科などの「産婦人科が専門外の医師」は妊婦を診察できないことがあるのです。

では、妊娠中に生じた痔は何科に相談すればいいのでしょうか? また、妊婦が痔で病院にかかった場合、どのような治療が行われるのでしょうか?

そこで、ここでは妊娠中に痔を発症したときの病院の選び方と病院で行われる治療方法について述べていきます。

妊婦の痔は産婦人科?肛門科?

通常、妊娠すると月1回以上の定期検診を受けることになります。

妊娠初期の健診では、経膣プローブという棒状の機器を膣内に挿入して子宮の状態を確認します。そのためこの時期の定期検診では必然的に医師が下半身を見ることになるため、肛門付近に大きないぼ痔ができていれば気付いてくれます。

ただ、いぼ痔の初期では肛門付近にいぼを確認できないことがあります。また、産婦人科医は痔を発見するために下半身を診るわけではないため、切れ痔などの小さな病態は見逃すことがほとんどです。

さらに妊娠中期を超えると、腹部にプローブを当てて子宮内を確認するようになります。そのためこの頃の検診では、検査のために下着を脱ぐことがありません。したがって、産婦人科医が痔に気づくことはありません。このことから痔の症状があるのであれば、その旨を自分から医者に相談する必要があるのです。

産婦人科医への相談は時間面や費用面でのメリットがある

産婦人科医は、女性の病気の専門医です。そのため、産婦人科医にとって痔は専門外の病気になります。

ただ、痔は妊婦に起こりやすい病気です。そのため経験豊富な産婦人科医であれば、妊婦に起こっている痔を診た経験がある可能性が非常に高いです。

産婦人科医に痔を診てもらうと、他の病院へ行く時間を節約することができます。また、新たに病院にかかる際には初診料が必要となります。そのため定期検診のとき、ついでに痔を診てもらうと費用の節約もできます。

さらに冒頭で述べたように、妊婦に起こる痔のほとんどは自然に治癒します。そのため症状の軽い痔であれば、産婦人科医の治療によって治ることが多いです。

ただいぼ痔の中には、対処を間違うと症状が悪化するものがあります。そして、産婦人科医はいぼ痔の状態を見分けられないケースがあるので注意が必要です。

産婦人科医は痔の状態を見誤ることがある

いぼ痔には肛門内の直腸側にできる内痔核(ないじかく)と肛門側にできる外痔核(がいじかく)があります。

内痔核を生じる部分には痛覚がありません。一方で、外痔核を生じる部分には痛みを感じる神経が多く通っているため、外痔核には強い痛みを伴います。

内痔核の初期では、いぼ痔が肛門内に留まっています。この時期にはいぼ痔からの出血が起こるものの、痛みを感じることはありません。

内痔核が進行して大きくなってくると、肛門から脱出するようになります。これを脱肛(だっこう)といいます。内痔核が脱出すると痛みを感じる部分に触れるようになります。そのため、脱肛が起こると痛みが起こるようになります。

このとき脱出した内痔核を肛門内に押し戻すと、痛みがなくなります。そのため内痔核の症状を和らげるためには、脱出した内痔核を押し戻すことが大切だといえます。

ただ肛門が専門外の産婦人科医では、脱肛と外痔核を見誤ることがあります。

外痔核は肛門のそばに生じるいぼ痔です。そのため、外痔核を肛門内に押し込んでも中には入りません。また、中に押し込めたとしてもすぐに飛び出してきます。

さらに、外痔核には痛覚があります。そのため外痔核を無理に肛門内へ押し込もうとすると、泣き叫ぶほどの痛みを感じることになります。つまり、症状が緩和するどころか悪化するということです。

さらに脱肛した内痔核であれば、炎症を抑える薬を使用することによっていぼが小さくなっていくことが期待できます。ただ外痔核の場合、このような薬が効かないことがあります。

外痔核の中には、静脈内の血栓が原因であるタイプがあります。血栓とは血液の塊のことです。血栓が血管内に生じると、血液の通り道がなくなるため血管が詰まります。

このとき、血液の帰り道である静脈に血栓ができると、血液が心臓へ戻れなくなります。

ただこのような状況になっても、組織には血液が送り込まれてきます。そのため静脈に血栓を生じると、血液が溜まって組織が腫れあがります。このような外痔核を血栓性外痔核といいます。

血栓によって血栓性外痔核を生じるということは、血栓がなくならなければ血栓性外痔核が治らないということです。そのため血栓性外痔核は、炎症を抑える薬を塗っても小さくなっていくことはありません。

さらに必要のない薬を使用することは、体にとって良いことではありません。実際に不要な薬を塗り続けると症状が改善しないだけではなく、かぶれなどの不快症状が起こりやすくなります。

このようなことから、産婦人科医が外痔核を脱肛であると誤診すると、外痔核そのものの症状に加えて、外痔核を押される痛みやかぶれなどの不快症状を経験することになります。そのため専門外の産婦人科医の診察では不安と感じるのであれば、肛門の専門医に診てもらうことが大切です。

痔を発症したらいつ病院に相談すべきか

いぼ痔や切れ痔などは自分で治せる痔です。そのため発症した痔がいぼ痔または切れ痔であるならば、必ずしも病院へ行く必要はありません。

また後述するように、痔の治療の基本は生活習慣の見直しです。そして生活習慣を改善できるのは医者ではなく、患者本人です。

そのため病院で治療を受けても、痔を治そうとする本人の意志がなければ痔は治りません。このことから、痔を発症したのであればまずは、「自分の力で痔を治す」という意識を持つ必要があります。

ただ、痔の症状を発症している場合、我慢するとストレスが溜まります。もともと妊娠中はストレスを溜めやすい時期です。そのため妊娠中に痔によるストレスが加わると、マタニティブルーや妊娠うつなどを発症しやすくなります。

マタニティブルーや妊娠うつなどが起こると、出産を憂鬱に感じやすくなります。反対に、出産はリラックスしている方がうまくいきやすいです。実際に後ろ向きな気分で出産に臨むと、分娩に時間がかかったり母子ともに危険な状態に陥ったりしやすくなります。

また妊娠中の強すぎるストレスは、おなかの赤ちゃんに悪影響を与えることがわかっています。さらに、妊娠うつを生じると産後の子育てにいいイメージを抱けなくなり、育児がつらいものになります。

そして、妊娠中は孤独な気持ちになりやすいです。そのためマタニティブルーや妊娠うつなどを発症すると、会う機会がもっとも多いパートナーに当たりやすくなります。

ただ男性であるパートナーは、妊娠中のつらさや妊娠うつの症状などを理解できないことがあります。そのため妊娠うつなどによってパートナーに当たってしまうと、夫婦間に亀裂が走る危険性があります。

このように、妊娠中の強いストレスは妊婦自身だけではなく、おなかの赤ちゃんやパートナーとの関係などにも悪影響を与えます。そのため、妊娠中にはなるべくストレスを溜めないように注意するべきです。

このことから、痔によって我慢出来ないほどの症状が現れているのであれば、肛門の専門病院での治療を検討してみるようにしましょう。

痔で病院にかかったらどのような治療をされるのか?

一昔前まで、痔の治療といえば手術を行うのが一般的でした。ただ現在ではなるべく手術をせずに治すのが主流となっています。

特にいぼ痔や切れ痔などは、命を落とす危険のある病気ではありません。そのためこれら痔で病院にかかったからといって、即日手術となることはありません。

さらにいぼ痔と切れ痔は、生活習慣の改善によって自然治癒が見込める病気です。このようなことから、いぼ痔や切れ痔などを発症しても、本人が望まなければ手術は行われません。

生活指導を受ける

痔は生活習慣病の1つです。

このとき生活習慣病の一種である糖尿病を治療する際には、必要に応じて投薬などが行われます。

それとともに、肥満の改善や食習慣の見直しなどの生活指導が行われます。これは、糖尿病を薬などで治療しても、糖尿病の原因となっている生活習慣を改善しなければ糖尿病が根本的に治ることはないためです。

これと同様に、病院で痔を治療する際には痔になりにくい生活を送るように指導されます。具体的にいうと、便秘や下痢などになりにくい習慣を身につけるようにいわれます。

痔は肛門に生じる病気です。そして、肛門は便を排出する器官です。そのため便秘や下痢などの排便異常が起こると、肛門に負担がかかって痔を発症しやすくなるのです。

ただ、妊婦はホルモンバランスの変化や大きくなったおなかなどによって便秘を生じやすい環境にあります。そのため妊婦が痔で病院にかかった場合、便秘を防ぐための生活指導を受けることが多いです。

また、妊婦は大きいおなかが周囲の血管を圧迫することによって血行不良を起こしやすい状態にあります。

肛門周囲の血行が悪くなると、うっ血によっていぼ痔を生じたり皮膚の伸縮性が低下して切れ痔を生じたりしやすくなります。そのため、妊婦の痔では肛門付近の血行改善を指導されることもあります。

このとき、痔になりやすい生活を送っていることを医者に伝えると、叱咤を受けることがあります。ただ、妊娠中は小さなことでも精神的なダメージを負いやすい時期です。

そのため痔で病院にかかる際には、医者から怒られることを想定して心の準備をしておくことをおすすめします。そして、病院に行く前に予め痔になりにくい生活を身につけておくと、怒られて落ち込む心配がなくなります。

薬を処方される

痔のつらい症状は、薬を使用することによって緩和します。特に、内痔核や切れ痔などは薬の使用によって治りが早くなることが多いです。

また外痔核は治りが早くなることはないものの、痛み止めの薬を使用することによって痛みが緩和しやすくなります。そのため病院に行ったときには、つらいと感じている症状を医者に伝えるようにしましょう。

ただ痔の症状緩和のために処方される内服薬の中には、妊婦が飲むべきではないものもあります。例えば、ロキソニンやボルタレンなどの鎮痛薬には、おなかの赤ちゃんに悪影響のある作用があることがわかっています。

一方で、カロナールなどのアセトアミノフェン製剤は妊娠中でも服用することができます。そのため、妊娠中に痔で病院にかかる際には、妊娠中である旨を伝えて妊婦が飲める薬を処方してもらうようにしましょう。

基本的に手術はされない

いぼ痔や切れ痔などは自然治癒する病気であるものの、症状が重かったり投薬で改善しなかったりする際には手術が行われます。

ただ基本的には、妊娠中に痔の手術が行われることはありません。

妊娠中は非妊娠時に比べて「死に至る症状が突然起こるリスク」が高いです。産婦人科が専門外である肛門科医はこのような症状に対応できません。

また、手術では患部を切り取ることになります。切除した部分からは出血が起こります。このとき妊娠中は出血が止まりにくく、非妊娠時に比べて出血量が多くなりやすいです。

出血量が多くなると、その分だけ貧血を生じたり前述したような「死に至る症状」が起こったりしやすくなります。

さらに、おなかの赤ちゃんは母親の血液から酸素や栄養などをもらっています。そのため体内の血液が少なくなると、妊婦自身だけではなくおなかの赤ちゃんにも悪影響があります。

そして通常、妊娠中には麻酔が使えません。これは、おなかの赤ちゃんが麻酔の影響を受けると、命を落とす危険性があるためです。

そのため命に関わるような特別な場合を除き、妊娠中に麻酔が使われることはありません。また妊娠中に麻酔が使用される際には、母子の安全を確保するために熟練の麻酔科医が行うのが基本です。

このとき多くの場合、肛門の専門病院に麻酔科医が勤務していることはありません。これは、一般的な痔の手術には麻酔科医が必要ないためです。このようなことから、妊婦には痔の手術を行わないのが原則となっています。

ただ、医者の中には古い常識に囚われたままになっており、「痔は手術で治すもの」と思い込んでいることがあります。このような医者にかかると、妊娠中でも痔の手術が行われかねません。

実際に、過去には緊急ではない痔の手術が行われた妊婦が術後の痛みに苦しみ、セカンドオピニオンを求めて別の専門病院にかかったケースがあります。

妊婦が痔の手術を受ける場合は、麻酔なしで行われることになります。当然のことながら、麻酔なしで手術が行われる際には激しい痛みに耐える必要があります。

さらに、妊娠中には痛み止め効果の高い鎮痛薬が使用できません。そのため妊娠中に痔の手術を行うと、術後にも強い痛みに苦しむことになります。

このような状況になると、まともな日常生活を送れなくなり強いストレスを抱えることになります。そのため、妊娠中にもかかわらず医者から痔を手術するといわれたら、別の病院にセカンドオピニオンを求めるようにしましょう。

また妊娠中には、痔の切除手術だけではなく「切らない手術」と呼ばれるジオン注射(ALTA)も行えません。これは、ジオン注射は比較的新しい治療法であり、妊婦への安全性が確立していないためです。そのため、妊娠中にもかかわらずジオン注射を勧められたら病院を変えるのが賢明だといえます。

妊娠中の肛門専門病院の選び方

前述のように、誤診によってつらい思いをしたくないのであれば、肛門の専門医に痔を診てもらうべきです。そのため痔で病院にかかるときには、肛門科を掲げているところを選ぶようにすることが大切です。

このとき肛門科の病院の中には、胃腸科や内科なども掲示しているところがあります。ただこのような病院は、本来の専門が胃腸科や内科などであるケースがほとんどです。そのため可能であれば、肛門科のみを掲げている病院に痔を相談した方がいいです。

しかしながら、妊娠中には遠くの病院へ通うことができません。そのため妊娠中に痔で病院にかかる際には、通いやすい病院を選ぶことが大切です。

また妊娠中の病院選びで気にするべきところは、通院時間や通院距離などだけではありません。これは、妊娠中の女性は非妊娠時に比べて非常に繊細であるためです。

予約制のところを選ぶ

妊娠することによって変わるのは、おなかの大きさだけではありません。妊娠中には、妊娠前に当たり前にできていたことが困難になっていきます。

例えば、妊娠中には長時間同じ姿勢を取っているのがつらくなります。そのため、診療の際の待ち時間が長いとかなり疲れやすくなります。また、おなかが張ったり貧血を起こしたりしやすくもなります。

このとき、肛門科の病院の中には完全予約制を取っているところがあります。完全予約制になると待ち時間が短くて済むため、座りっぱなしなどによって不調を起こす心配が少なくなります。そのため、妊娠中にはこのような病院を選ぶようにすることが大切です。

電話応対が良いところを選ぶ

妊娠中はおなかの小さな命を守るために、小さなことにも不安を感じやすい状態となっています。そのため妊娠中には、スタッフの応対が良い病院を選ぶのが好ましいです。

例えば、予約や診療内容などを電話で聞いた時に、十分な説明がなかったり一方的に話をされたりするようであれば病院の変更を検討すべきです。

多くの場合、電話の応答をするのは受付スタッフです。そのため、受付スタッフの雰囲気のみで医者の人柄を見極めることはできません。

ただ病院スタッフがいつも時間に追われるような環境にいたり、医者がイライラをスタッフにぶつけるような人であったりした場合には、受付スタッフの精神的な余裕がなくなりやすいです。

このことから受付スタッフの応対が悪い場合は、他のスタッフや医者などの応対も良くない可能性があります。そのため受付スタッフの応対に不安を感じたら、他に行ける病院がないか探してみるようにしましょう。

不安を感じたら病院を変える

前述のように、医者が妊娠中に痔の手術を勧めてきたり妊婦が使えない薬を処方しようとしたりしてきた場合には、病院を変えるべきです。

また、これ以外にも医者やスタッフなどの対応に不安を感じたら他の病院を探してみることをおすすめします。

例えば同じ専門の医者でも、技術や知識などのレベルは人それぞれ違います。そのため肛門の専門医も、人によって診断能力や治療技術などのレベルに差があるのが事実です。

また肛門科の中には、自由診療を中心に行っているところがあります。保健医療であれば必ず医療明細がもらえます。一方で、自由診療の場合には医療明細がもらえないケースがあります。

このとき、明細の受け渡しをしぶったり拒否したりするということは、どのような治療が行われているかがわからないということになります。

ただ妊娠中の体はデリケートであるため、妊婦自身が治療内容をきちんと把握することが大切です。そのため、妊娠中には医療明細を渡さないような病院にかからないようにすることが大切です。

まとめ

妊娠中に発症しやすい痔は自然に治る病気であるため、必ずしも病院にかかる必要はありません。

ただ痔の症状が重くなってくると、妊娠中のストレスが増大しやすくなります。そのため痔の症状が我慢できないようであれば、病院での治療を検討すべきです。

ただ、妊娠中には受けられない治療や使用できない薬などがあります。また妊婦の体はデリケートであるため、病院を選ぶ際にはさまざまな点に注意する必要があります。

そのため妊娠中に痔の症状で病院にかかりたいのであれば、ここで述べた内容を参考に病院選びを行いましょう。そうすることによっておなかの赤ちゃんへの影響を心配せずに済み、楽しいマタニティライフを送れるようになります。