一般的に、痔の手術は痛いと思われています。

たしかに、肛門部分には痛みを感じる神経が多く通っています。そのため痔の手術によってこの部分に傷ができると、強い痛みを感じます。

実際に一昔前の痔の手術では、手術中だけではなく手術後にも痛みによって苦しむのが当たり前でした。このようなこともあり、「痔の手術は痛い」というイメージは根強く残っています。

ただ現在ではさまざまな痔の手術法が開発されており、中には痛みを伴わない方法もあります。

その中でもPPH法は、痛くないだけではなく根治性が高いという利点もある、いぼ痔の手術方法です。そのため痔を手術で治療しようとしている人の中には、PPH法を検討している人がいることでしょう。

ただPPH法にはさまざまなデメリットやリスクなどもあります。したがって手術後に後悔しないためには、PPH法の負の側面についても知っておくことが大切です。

では、PPH法とはどのような手術法であり、どれくらいの費用がかかるのでしょうか? また、PPH法にはどのようなデメリット・リスクがあるのでしょうか?

そこで、ここではPPH法によるいぼ痔の治療方法とPPH法のデメリットやリスク、費用などについて解説していきます。

PPH法とは?

PPH法は1993年にイタリアで開発されたいぼ痔(痔核)の手術方法です。この手術法はヨーロッパを中心に広く行われており、治療成績も良いといわれています。

2000年台初め頃には、日本の病院でも導入されるようになりました。PPH法が普及し始めた当初は、「いぼ痔を切らずに治す画期的な手術方法」といわれていました。

PPH法はどのようにして行うのか?

PPH法では、サーキュラー・ステープラーという機器を用いて腸の内部を切り取ります。

サーキュラーとは「円形の」という意味を持ちます。また、ステープラーはホチキス(ホッチキス)のことです。このことから、サーキュラー・ステープラーとは「円形状のホッチキスのような医療器具」であることがわかります。

PPH法では、まずサーキュラー・ステープラーの筒部分を肛門に挿入します。次に、いぼ痔を生じている部分の2cmほど上の部分(直腸粘膜)を機器で挟みます。そして、この部分を筒状に輪切りにします。

このときサーキュラー・ステープラーでは、切除すると同時に組織を縫い合わせることができます。これはちょうど、ホッチキスのような働きです。

そのためこの機器で直腸粘膜を切ると、同時にいぼ痔を生じている組織が2cm程度上に引き上げられます。そのためPPH法を行うと、いぼ痔が肛門から脱出しなくなります。

このようにして引き上げた際には、いぼ痔への血流が遮断されるとされています。これによって、PPH法を行った後のいぼ痔は小さくなっていくといわれています。

PPH法が痛くないのはなぜか?

いぼ痔を生じるのは、肛門クッションという組織です。肛門クッションは直腸側と肛門側の2箇所に存在しています。これらのうち直腸側に生じるいぼ痔を内痔核(ないじかく)、肛門側に生じるいぼ痔を外痔核(がいじかく)といいます。

内痔核を生じる直腸には、痛みを感じる神経がありません。そのためPPH法によって直腸粘膜を切っても、皮膚が切られるときのような激しい痛みは発生しません。

また、切除する際には多少の痛みを生じるものの、麻酔が使われるため手術中に痛みを感じることはありません。

そしてPPH法は、いぼ痔の切除手術(結紮切除術)に比べて術後の痛みも少ないです。このようなことから、PPH法は痛くないいぼ痔の手術といわれています。

PPH法のメリットとは?

PPH法では、医療用メスではなく専用の機器を使用します。そのためこの手術は、メスを使用する手術法に比べて繊細な技を必要とせず簡単に行えるという特長があります。つまり、PPH法では手術の失敗が起こりにくいということです。

手術に関して一般的に、患者は医者の知識量や技術のレベルなどを測ることができません。そのため、どの医者でも簡単に行える治療法ということは、失敗した手術を受けるリスクを回避できるということになります。

また、医者にとって手術の失敗とは訴訟されるリスクがあることを意味します。そのため、専用の機器を使うことによって手術が簡単になると、訴訟リスクを減らすことができるのです。

このことから、手術が簡単になるということは、患者と医者の双方にメリットがあるといえます。

また手術に痛みを伴わないということは、多くの人にとってメリットとなります。さらに術後の痛みが軽くて済むようになると、入院する必要性が低くなります。

このときPPH法では術後の出血が多いものの、数日で落ち着きます。そのためPPH法での入院期間は数日で済むことが多く、中には日帰りで行っている病院もあります。

入院期間が短くて済むと、その分だけ時間の都合がつけやすくなります。このことからPPH法には、痛くないということだけではなく時間面でのメリットもあることがわかります。

さらにPPH法は、再発率が低いという利点もあります。このことから、PPH法は痔核根治手術の1つであるとされています。

また、PPH法では重症な内痔核を短時間で処置でき、過去の手術によって生じた後遺症や直腸脱などを治療することができるというメリットもあります。

PPH法はどのような症状を治療できるのか

病院で行われるいぼ痔の治療には、さまざまな種類があります。ただこれらの多くは、治療できるいぼ痔のタイプが限られています。

例えば、輪ゴムでいぼ痔を縛って壊死させるゴム輪結紮術では、硬かったり大きかったりするいぼ痔を治すことができません。これは、このようないぼ痔には輪ゴムをかけることができないためです。

また、「切らない手術」と呼ばれるALTA療法(硬化療法)は、大きすぎたり小さすぎたりするいぼ痔に適用できません。また、外痔核を生じている内痔核にも利用できません。

これに対してPPH法は、内痔核そのものを切るわけではありません。そのため、「PPH法で手術できるかどうか」が内痔核の状態に左右されることはありません。このことから、PPH法は「さまざまなタイプのいぼ痔を治療することができる方法」だとされています。

また前述のように、PPH法はいぼ痔だけではなく、手術の後遺症や直腸脱なども改善させることができます。

重症化した内痔核を短時間で治療できる

多くの場合、内痔核が進行すると複数の内痔核が脱肛するようになります。最悪の場合、肛門クッションの全周囲に内痔核を生じ、そのすべてが脱肛することがあります。

このとき結紮切除術は、いぼ痔を1つ1つ切り取っていく手術法です。そのため、全周囲に生じた脱肛を結紮切除術で治療すると、脱肛した内痔核が多くなるほど手術にかかる時間が長くなります。

一方でPPH法では、複数の内痔核が脱肛していても作業が増えるわけではありません。PPH法で行われるのは脱肛の数にかかわらず、サーキュラー・ステープラーで直腸粘膜を筒状に切り取るという作業のみです。

そのためこの手術法では、さまざまな内痔核を治療できるだけではなく、内痔核が進行していても短い時間で手術を終えることができます。

ホワイトヘッド手術による後遺症を治療できる

PPH法を利用すると、「ホワイトヘッド法」による痔の後遺症を改善できるようになります。

この「ホワイトヘッド法」とは、一昔前に流行ったいぼ痔の手術方法のことです。

ホワイトヘッド法では内側の肛門組織をすべて切り取り、直腸と肛門を直接縫い合わせます。この手術法ではいぼ痔を生じる組織が残らないため、いぼ痔が再発しません。

ただ肛門クッションはパッキンのような役割を担っている組織です。そのため肛門クッションがすべて切除されると、肛門の締まりが悪い状態になって便や分泌液などが漏れやすくなります。

さらに、肛門や直腸などを支えていた組織が切除されるため、直腸の粘膜が重力に引っ張られて落ちやすくなります。そうすると、肛門から直腸粘膜が脱出するようになり、粘液でおしりがベタベタになるなどの症状が現れます(直腸粘膜脱)。

このように、ホワイトヘッド法は肛門機能を大きく損なう手術法であり、重篤な後遺症を生じる危険性があります。そのため現在では、ホワイトヘッド法による手術が行われていません。

ただ、ホワイトヘッド法が流行したのは半世紀ほど前です。そのため若い時に痔の手術を受けた高齢者の中には、ホワイトヘッド法による後遺症に苦しんでいる人がいます。そしてPPH法は、このような後遺症を改善できる方法の1つです。

PPH法で直腸を引っ張り上げると、内痔核が脱肛しなくなるのと同様に、肛門から脱出していた直腸粘膜が肛門内に戻るようになります。そのためPPH法を利用すると、ホワイトヘッド法の後遺症による粘液漏れや痛みなどが改善されるようになります。

PPH法のデメリットとリスク

前述のようにPPH法は、痛みが少なく入院期間が短い手術法です。

またこの手術法では、さまざまな肛門の問題を解決することができます。そのためこれらのメリットに注目すると、PPH法は多くの人の需要を満たせる手術法であるように思えます。

ただ、どのような方法にもメリットとデメリットの双方があるように、PPH法にもさまざまなデメリットやリスクなどがあります。そしてこのようなデメリット・リスクの中には、取り返しのつかないことにつながるものがあるので注意が必要です。

いぼ痔そのものを切らない=いぼ痔はなくならない

PPH法では、直腸粘膜を切っていぼ痔を引っ張り上げます。そのため、PPH法を行ってもいぼ痔がなくなるわけではありません。

前述のようにPPH法では、いぼ痔に流れ込む血流が遮断されることによって術後にいぼ痔がなくなるとされています。ただ、PPH法を行ったいぼ痔を観察したところ、しばらく時間が経過してもいぼ痔がなくならなかったという研究結果もあります。

このとき、いぼ痔が引っ張り上げられて肛門内に入ると、脱肛が起こりづらくなるのは事実です。そのためPPH法を行うと、脱肛に伴う痛みや粘液漏れなどが起こりにくくなります。

しかしながら肛門内に大きないぼ痔があると、排便時に便が擦れやすくなります。いぼ痔の表面は脆く薄い状態になっているため、便と擦れると容易に出血します。そのためPPH法では、いぼ痔による出血が改善しないことがあります。

このことから、一般的にPPH法は痔核の根治手術であるとされているものの、その効果は専門家の間で意見が分かれている状態なのです。

正常な組織を切除することのリスク

PPH法で切除するのは、「直腸粘膜」という何の問題もない正常な組織です。本来、健康的な組織は切除されるべき部分ではありません。そのためPPH法は、正常な組織を切除することに対する疑問が投げかけられています。

実際に、ホワイトヘッド法が流行した当初は、「ホワイトヘッド法はいぼ痔の再発がない完璧な手術だ」とされていました。ただ「ホワイトヘッド法では重篤な後遺症を生じる」ということは前述したとおりです。

そのホワイトヘッド法の後遺症は、術後数十年してから現れたのです。これと同様に健康的な組織を切るPPH法では、いつどのような後遺症が現れるのかがわかりません。ホワイトヘッド法と同様に、流行してからかなりの月日が経過後に問題が表面化する可能性があるのです。

そのためPPH法は、結紮切除術などに比べて未知のリスクをはらんでいる手術法だといえます。このようなことから、肛門科病院の中にはPPH法を取り入れていないところもあるのが実情です。

適切な切除が行われないことがある

PPH法では専用の機器を使用するため、医者のスキルによる差が出にくいというメリットがあることは既に述べました。ただ、これは手術結果に全く差がないということを意味するわけではありません。

PPH法では、直腸の粘膜と粘膜下の組織までをサーキュラー・ステープラーで挟み込んで切除します。

このとき、挟み込む範囲は目分量で判断します。そのため医者の判断が不適切な場合、通常よりも広い範囲を挟み込んでしまうことがあります。

このような状態になると、粘膜下組織より深い位置にある筋肉層まで切れてしまうことがあります。筋肉の層は、一度傷つくときれいに修復されません。そのため手術によって筋肉層に傷が入ると、肛門機能にさまざまな悪影響があらわれます。

また、挟み込む範囲が広すぎると、直腸に穴が開いてしまうこともあります。直腸に穴が開くと、組織に便が入り込みやすくなります。そうすると、便に含まれる細菌によって感染し、さまざまな症状が現れます。

さらに女性の場合、直腸の隣には膣があります。そのためPPH法によって直腸に穴が開くと、膣とつながってしまうことがあります。これを直腸膣瘻(ちょくちょうちつろう)といいます。

このような状態になると、便に含まれる腸内細菌によって膣が細菌感染を起こしやすくなります。そうすると、つらい症状が現れるだけではなく不妊を生じることもあります。そして実際に、PPH法によって直腸膣瘻を生じた人がいます。

このようなことから、機器で挟み込む組織が多すぎると、さまざまな後遺症・合併症を生じやすくなることが分かります。

一方で挟み込む範囲が狭すぎると、適切なところまで内痔核が引っ張り上げらないことがあります。そうなると、脱肛が改善しないことになります。

このようなことからも、「PPH法は医者のスキルによる仕上がりの差が少ない」といわれているものの、「合併症なくいぼ痔を治療するためには、高い技術をもった医者が治療に当たる必要がある」ことがわかります。

PPH法にかかる費用と時間は?

病院で治療を受ける際、どれくらいの費用がかかるのかという点は誰もが気になることでしょう。ただ、病院での費用についての説明は、あまり見受けられません。そのため多くの人が、どれくらいの費用が必要なのか分からずに治療を受けています。

ただ、このような不安な気持ちでは、医者の説明を集中して聞けなくなります。そうすると、医者が言ったことに対して同意しかできなくなり、自分が納得できるような治療を受けられない可能性があります。

前述のようにPPH法の後遺症の中には、取り返しのつかない状態になることがあります。そのため納得して治療を受けるためにも、手術にどれくらいの費用がかかるかを知っておく必要があります。

保険の適用となるのか?

PPH法は健康保険の適用となります。そのためPPH法を受けた際に支払う金額は、総医療費の3割(後期高齢者は1割)となります。

PPH法にかかる具体的な金額は、行われる治療内容によって異なります。例えば、入院すればその分だけ費用がかさみます。また入院にかかる費用は、医療機関によって異なります。

ただPPH法では術後の痛みが少なく、出血が止まるのも早いです。そのためPPH法の多くは日帰りか1泊入院での手術となるため、病院間での費用の差が小さいです。

具体的には、3割負担で45000~60000円程度、1割負担の人では15000~20000円の費用がかかると思っておくと良いでしょう。

・医療保険の適用となるのか?

加入している医療保険の種類によっては、痔の手術によって医療給付金がもらえるケースがあります。この場合、PPH法は痔手術による給付金の対象となります。

もらえる給付金の額は加入している保険によって異なります。ただ、PPH法による手術費をまかなえる程度の金額が下りることが多いようです。

PPH法にはどれくらいの時間がかかるのか?

メスで患部を切り取る結紮切除術では、いぼ痔の状態や数などによって必要となる時間が変わります。

一方で、機器で直腸粘膜一周を切り取るPPH法では、所要時間がいぼ痔の状態に左右されることはありません。そのためPPH法では、いぼ痔がどのような進行度であっても30分程度で手術を終えることができます。

ただ手術中は、時間の感覚が普段と異なります。

PPH法を行う際には麻酔が使用されます。このときの麻酔は下半身だけにかかるため、手術中には意識があります。

当然のことながら、手術中には暇をつぶすことができません。このことから手術を終えるまでの30分間は、普段よりも長く感じやすいです。そのため痔の手術は、「早く終るものだ」と思って臨まないようにすることをおすすめします。

まとめ

痔核根治手術の1つであるPPH法は、痛みのない手術方法です。また必要となる入院期間も短いため、仕事や家のことなどで忙しい人でも時間を工面しやすいというメリットがあります。

一方で、PPH法では正常な組織を切り取るため、長い期間が経った後に生じる後遺症が危惧されています。

またPPH法の合併症の中には、取り返しのつかないものもあります。そのためPPH法を受ける際には、後遺症や合併症などのリスクがあるということを十分に理解する必要があります。

痔の手術を受けるのも手術後の体と付き合うのも、医者ではなく自分自身です。そのため術後に後悔しないためにも、これまでに述べた内容を踏まえ、自分が納得した手術方法を選ぶようにしましょう。

そうすることによって、痔の症状や後遺症、合併症などによって苦しむ必要がなくなります。