世の中には、自然に治る病気や命に関わる病気などのさまざまな病気があります。そしてこのような病気の中には、人から人へうつる病気もあります。

例えば風邪やインフルエンザ、ノロなどは、他人にうつる病気として有名です。そのためこれらの病気にかかりたくないのであれば、インフルエンザなどを発症している人に近づかないのが有効です。

また他人にうつるのは、咳や下痢などの「体の内側に症状が起こる病気」だけではありません。実際に皮膚に症状が出るヘルペスや水虫などは、人から人へとうつる病気です。

では肛門の皮膚などに症状を生じる痔は、人にうつる病気なのでしょうか? また痔がうつったと感じたら、どのように対処したらいいのでしょうか?

そこでここでは、痔や感染症などを発症するメカニズムについて解説し、痔がうつったときと感じたときの対処法について述べていきます。

痔は感染する病気なのか?

現代医療が発達する前の世界では、「病気はうつるものである」とされていました。そのため現在でも、さまざまな病気が人にうつる病気だと思われています。

例えば皮膚病の一つである乾癬(かんせん)は、人にうつる病気であると勘違いされがちな病気です。

乾癬では患部から大量のフケを生じます。一般的にフケは、不潔なものとされています。そのため乾癬によって生じたフケに触れると、病気がうつると思っている人が多いです。そのため乾癬を発症している人は、温泉や銭湯などに入ることを拒否されることがあります。

これと同様に痔も、銭湯やウォシュレットなどでうつると思われることのある病気です。そのため正しい知識がない人は、「痔の人は、痔が他人にうつるから公共トイレのウォシュレットを使うべきではない」と思っているケースがあります。

ただ乾癬や痔などは、人にうつる病気ではありません。そのためこれらの病気を発症している人が温泉などに入ったり公共トイレのウォシュレットを使ったりしても、病気が移ることはありません。これは、乾癬や痔などが「特定の病原体」によって引き起こされる病気ではないためです。

病気がうつるメカニズム

風邪やインフルエンザなどを患っている人の近くに行くと、これら疾患がうつります。これは風邪やインフルエンザなどが「病原体が体内で悪さをすることによって発症する病気」であるためです。

例えば風邪は、ライノウイルスやコロナウイルスなどの風邪ウイルスが人体の中で増殖することによって起こります。またインフルエンザやノロ、ヘルペスなどもウイルスによって引き起こされます。

さらに体の中で悪さをするのはウイルスだけではありません。結核菌や白癬菌(はくせんきん)などの菌も病気を引き起こします。人体が結核菌に感染すると結核を発症し、白癬菌が手足の皮膚に住み着くと水虫を発症します。

このような体に悪さをするウイルスや菌などは、病原体と呼ばれます。また病原体によって引き起こされる病気を感染症といいます。

感染症の原因となる病原体は、目に見えません。そのため風邪を患っている人のそばに近づくと、患者の咳などに含まれる病原体が知らないうちに体内に侵入することがあります。

体内に病原体が侵入して増殖すると、感染症を発症します。つまり感染症を発症している人から病原体を受け取ることによって、病気が人から人へとうつるのです。このことから他人にうつる病気は、病原体による感染症であるということがわかります。

ウォシュレットや銭湯などで痔はうつるのか?

痔は生活習慣病の一種です。

例えば食生活は、痔の発症に深く関与しています。食事の内容が変わると、それに応じて便の状態が変わります。そのため食生活の質によっては、便秘や下痢などが起こりやすくなります。

便秘や下痢などが起こると、その分だけ肛門組織に負担がかかります。そのため便秘・下痢はいぼ痔(痔核)や切れ痔(裂肛)などの、さまざまなタイプの痔を発症させやすくします。

また血行不良も痔を発症させる原因となります。血行不良になると組織がうっ血を起こしやすくなり、いぼ痔の発症リスクが高くなります。また肛門皮膚に血行不良が起こると、肛門皮膚の機能低下が起こります。その結果、切れ痔を発症しやすくなります。

そして血行不良は、悪い生活習慣によって起こります。例えば運動不足になると血行不良が起こりやすくなります。これは人体が、体を動かすことによって血液が全身を巡る構造になっているためです。

また薄着をしたり冷たい飲み物を常飲したりすると、体が冷えやすくなります。体が冷えるとその分だけ血液が流れにくくなります。その結果血行不良が起こり、痔の発症につながります。

このように痔は好ましくない生活習慣によって発症する病気であり、感染症ではありません。したがって痔が銭湯やウォシュレットなどによって人にうつることはありません。

実際に生活習慣病一つである糖尿病や高血圧症などは、人から人へとうつる病気ではありません。そのため糖尿病患者の近くにいっても糖尿病を発症することはありません。これと同様に痔を発症している人と関わっても、痔を発症することはないのです。

痔がうつるとされていたこともあった

前述のように痔は感染症ではないため、人にうつりません。ただ過去には、「痔は人にうつる」とされていたことがありました。これは結核菌があな痔を発症させることがあったためです。

あな痔(痔瘻・じろう)とはおしりの内部に細菌による感染症が起こり、膿が溜まることによって起こる病気です。

おしり内部に溜まった膿は、管を形成しながらおしりの中を流れ進んでいきます。膿の出口がおしりの皮膚や腸などにつながると、この部分から膿が排出されるようになります。

膿は免疫細胞や細菌などの死骸で構成されています。そのため膿を調べると、あな痔を引き起こしている細菌の正体がわかります。

このような中、過去にあな痔によって生じた膿から結核菌が検出されたことがありました。そのため昔は、結核菌があな痔を引き起こしていると考えられていました。

結核菌は結核という感染症を引き起こす病原体です。そのため結核が人から人へとうつるのと同様に、あな痔は人にうつる病気であるとされていたのです。

ただ結核菌によるあな痔は、結核を発症している人に起こる症状でした。結核は治療法が確立したことによって、患者が激減した病気です。そのため現在では、結核菌によってあな痔を発症する人はほとんどいません。

実際に現代では、あな痔によって生じた膿から結核菌が検出されることはほとんどありません。あな痔を引き起こしているのは、腸内に住み着いている細菌です。したがって現在において、あな痔は人から人へうつる病気ではありません。

痔がうつったと感じるのはなぜか?

前述のように痔は、人から人へうつる病気ではありません。ただ中には、「実際に自分は人から痔をうつされたのだから、痔はうつる病気である」と思い込む人もいるでしょう。

ではなぜ、痔はうつらない病気であるはずなのに「痔をうつされた」と感じるのでしょうか。

それは人間が「偶然の一致」に対して特別な意味を感じやすいためです。

例えば女性であれば、「生理(月経)はうつる」という話を聞いたことがあるかもしれません。実際にこのような噂は、一昔前まで疑いなく信じられていました。しかしながら現実には月経は生理現象であるため、人にうつることはありません。

ただこのとき生理がきている人から「生理がきた」という話を聞いた後、女性に生理が始まったとします。そうするとこの女性は、「生理がきた人と話したら生理がきた」と強く印象づけられます。つまり生理が人から人へとうつったように感じるのです。

このとき「生理が来た」という話を聞いた後に生理がこなくても、不思議には思いません。偶然の一致が起こっていない場合は印象に残らないため、特別な意味を感じないのです。このようなことから生理は人にうつるという噂が広まりました。

このような心理的な働きは、本来人にはうつらない現象・病気でも、うつったように感じさせます。そのため痔の場合も同様に、痔の人と関わったあとに痔を発症すると「痔がうつった」と感じることがあるのです。

ただこのとき、痔に対する正しい知識があれば痔がうつったと勘違いすることはありません。そのため正しい知識を習得するとともに、「どのような場合に痔がうつったと感じるか」を知っておくことが大切になります。

同居していると痔がうつったと勘違いしやすい

感染症が人から人へとうつるのは、病原体の受け渡しが行われるためです。そのため病原体を保持している人と関わると、その分だけ感染症にかかりやすくなります。

例えばインフルエンザを患っている人のそばに近づくことが多いほど、インフルエンザウイルスの影響を受け取る機会が増えます。そうするとその分だけ、インフルエンザを発症するリスクが高くなります。

このとき同居している家族やパートナーなどは、もっとも病原体の受け渡しが行われやすい関係性です。そのため家族の一員が感染症を発症すると、同居している家族が同じ病気にかかりやすくなります。

このとき「家族は同じ感染症にかかりやすい」ということは、多くの人が認識していることです。そして痔は、同居している人が発症しやすい病気です。このことから「同居している人から痔をうつされた」と思う人がいるのです。

ただ通常、同居していると生活習慣が似てきます。特に食生活は、家族間でほぼ同じとなります。そして前述のように、食生活は痔の発症に深く関与しています。つまり同居している人の間で痔が起こりやすいのは、痔がうつっているからではなく食事の内容が同じになりやすいためなのです。

性感染症を発症している

痔が性行為を行ったパートナーからうつったと感じる場合は、性感染症を発症している場合が考えられます。性感染症とは、性行為によって発症する感染症のことです。

性行為では性器などの組織が触れあいます。そのため性感染症の病原体を保持している人と性行為を行うと、性器などによって病原体の受け渡しが行われます。

その結果、性感染症が人から人へとうつります。性感染症の有名なものにはヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって起こるエイズや梅毒トレポネーマによって引き起こされる梅毒などがあります。

このような性感染症のうち、尖圭コンジローマ性器ヘルペスエイズは肛門に症状を引き起こすことがあります。

尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルスによって引き起こされます。肛門が尖圭コンジローマに感染すると、肛門内や肛門周辺の皮膚などに1~2cmのいぼが多数できます。

このときいぼ痔と尖圭コンジローマでは、いぼの形状やいぼを生じる部分などが異なります。そのためいぼ痔を経験している人や専門家などであれば、これらを見誤ることはありません。

ただいぼ痔についての知識がない場合、「肛門にいぼ状のものができた=いぼ痔である」と誤解してしまうことがあります。このような勘違いをすると、パートナーなどから尖圭コンジローマがうつった際に「いぼ痔がうつった」と思い込むことになります。

また性器ヘルペスはヘルペスウイルスが肛門に住み着くことによって起こる病気です。肛門がヘルペスウイルスに感染すると、かゆみや痛みなどを生じたり皮膚のただれが起こったりします。そのため性器ヘルペスによる症状も、痔と間違われることがあります。

さらにエイズの症状の中には、肛門の病変や痔などを併発することがあります。これはエイズの病原体であるHIVが免疫力を低下させるためだと考えられます。免疫力が下がると、その分だけ感染症を発症しやすくなります。

例えば肛門性交によってエイズがうつると、肛門がHIVの影響を受けることになります。その結果、尖圭コンジローマなどの感染症が肛門に起こりやすくなります。

また免疫力が下がると、おしり内部の組織が便に含まれている細菌によって感染しやすくなります。そうするとおしり内部に膿が溜まり、痔瘻の発症につながります。

このように性感染症の中には、痔と似た症状を引き起こしたり痔を併発させたりするものがあります。そのため性行為を行った相手から痔をうつされたと感じた場合は、性感染症の発症を疑うことが大切です。

痔がうつったと感じたときの対処法

痔がうつったと感じているということは、肛門に何らかの症状が出ていることが推察されます。

肛門の症状は、座ったり立ったりなどの日常動作で重くなります。そのため肛門に痛みなどの症状が起こっていれば、日々の生活がつらくなります。このことから痔がうつったと感じている人は、一刻も早く症状を取り除きたいと思っていることでしょう。

ただ前述のように痔がうつったと思っていても、性感染症を発症しているケースがあります。そして痔と性感染症では、対処法が異なります。そのためつらい症状をなんとかしたいと思っているのであれば、まずは発症している病気をしっかり見極めることが大切です。

痔であるならば家族で痔対策を

痔には大きく分けていぼ痔と切れ痔、あな痔の3種類があります。

いぼ痔では肛門内や肛門の外側などにいぼ状の出来物ができます。肛門外側にできるいぼ痔(外痔核)はコリコリとした状態になっており、触ると激痛が走ります。

また肛門内にできたいぼ痔(内痔核)は、悪化すると肛門から脱出するようになります(脱肛)。そうすると、ぷにぷにとしたいぼ痔に触ることができるようになります。そのため、肛門付近にコリコリまたはぷにぷにとした出来物を生じている場合はいぼ痔であるといえます。

切れ痔は肛門皮膚にできる裂け傷です。そのため切れ痔には、手指に傷ができたときと同じようなビリビリとした痛みを伴います。

このような痛みは、排便などによって肛門が広がったり肛門になにかが触れたりしたときなどに強くなります。そのためこのような症状が出ているのであれば、切れ痔である可能性が高いです。

あな痔ではおしり全体が痛んだり、おしりの皮膚や肛門などから膿の排出が起こったりします。また全身性の発熱が起こることもあります。そのためこのような症状が出ているのであれば、あな痔であると考えられるでしょう。

そしてこのような痔の症状が家族間で生じていることによって「痔がうつった」と感じている場合、家族全員が「痔を発症しやすい生活」を送っている可能性が高いです。したがってこのような場合は、家族みんなで生活習慣を見直すことが大切です。

性感染症ならば病院へ

前述のよう尖圭コンジローマでは、肛門付近に多数の細かい出来物を生じます。「先が尖った鶏のトサカのような形状のいぼ」ができるのです。

これに対してにいぼ痔の一種である内痔核は、最大でも3つしか発症しません。また外痔核が複数個同時に発症することもほとんどありません。

さらにいぼ痔は血液が溜まることによって組織が腫れ上がります。そのためいぼ痔では、水風船のように丸い出来物になります。したがって肛門付近に多数のいぼを生じたり、いぼが尖っていたりする場合は尖圭コンジローマを疑う必要があります。

性器ヘルペスは肛門付近に水疱ができたり小さな潰瘍ができたりします。このとき水疱を生じている際にはかゆみが起こりやすく、潰瘍ができると痛みが起こることが多いです。

水疱や潰瘍などは、患部周辺に複数できることが多いです。そのため肛門周辺にいくつもの水疱や潰瘍などができている場合は、性器ヘルペスを発症している可能性があります。

エイズの初期症状では、風邪に似た症状が起こります。例えば熱が出たり、喉や関節などに痛みが起こったり、発疹を生じたりします。そのためエイズの自覚症状が現れても、風邪と勘違いされて放置されやすいです。

ただHIVによる症状は、2週間以上の長期に渡ります。また病院で風邪の治療を受けても症状がなくなりません。そして発症から3ヶ月程度で風邪のような症状は治まり、約10年間は無症状が続きます。

尖圭コンジローマや性器ヘルペスなどの性感染症は、自然に治癒します。ただ悪化すると治りにくくなったり重篤な症状につながったりするケースがあります。

またエイズは自然に治癒する病気ではありません。またエイズを放置しておくと、数年で死に至ります。そのためこれまでに述べたような性感染症の症状が現れたら、なるべく早めに検査・治療を受けることが大切です。

そしてうつされたと思っていた痔が性感染症である場合、性行為を行った相手も性感染症を発症している可能性が非常に高いです。そのため肛門周辺に性感染症の症状が出ているのであれば、パートナーとともに性感染症の検査を受けるようにしましょう。

まとめ

病気の中には、人から人へとうつるものがあります。このような病気は感染症と呼ばれ、ウイルスや菌などの病原体によって引き起こされます。

そのためこれらの病原体が発症の原因ではない痔は、人にうつることはありません。したがって痔を発症している人と一緒に銭湯や温泉などに入ったりウォシュレットを共用したりしても、痔がうつることはありません。

ただ性行為によってうつる性感染症の中には、肛門に症状が起こるものがあります。そのため「性行為を行った相手から痔をうつされた」と感じるのであれば、性感染症を疑うことが大切です。

また家族などから痔がうつったと感じる場合は、家族みんなが「痔になりやすい生活」を送っている可能性が高いです。そのためこのような場合は、家族全員で痔対策を行うようにしましょう。

このとき痔と性感染症では、対策方法が大きく異なります。そのため肛門のつらい症状を改善するためには、病変の原因が痔と性感染症のどちらであるのかを見極めることが大切です。そうすることによって病気を正しく治療することができ、健康的な肛門を取り戻すことができるようになります。