今までに痔を患ったことがある人は、「辛い食べ物は痔に悪い」ということばを聞いたことがあるかもしれません。

ただ一般的には、「辛い食べ物は健康にいい」というイメージを持たれがちです。そのため「辛い食べ物は痔に悪い」と聞いても、ピンとこない人が多いようです。

しかしながら辛い食べ物の中には、痔の発症や悪化などの原因となる成分が含まれていることがあります。そのため痔を発症していたり予防したりしたい人は、辛い食べ物の摂取を控える必要があります。

ではなぜ辛い食べ物は痔に悪いのでしょうか? また「痔で苦しむのは嫌だけど、どうしても辛いものを食べたい」という場合はどうするべきなのでしょうか?

そこでここでは、辛い食べ物が痔に悪い理由と痔を発症・悪化させないための辛い食べ物の食べ方について解説していきます。

辛い食べ物が痔を発症・悪化させる理由

痔とは肛門に生じる病気の総称です。そのため肛門に痒みや痛みなどの症状が現れたら、痔を発症しているということになります。

また痔は、生活習慣病の一種といわれています。これは痔が糖尿病などと同様に、生活習慣に起因する病気であるためです。

したがって痔を予防・改善するためには、生活習慣を見直す必要があります。そして辛い食べ物を継続的に食べることは、このような「痔を引き起こしやすくする生活習慣」の一つなのです。

辛味とは?

わたしたちの舌には、味を区別するための受容体(スイッチのようなもの)が存在しています。

このような受容体は甘味と酸味、塩味、苦味、うま味の5種類に分けられます。そしてこれらの受容体に、食べ物がもつ特定の物質がくっつくことによってそれぞれの味を感じます。

例えば砂糖や白飯、パンなどには、甘味受容体と結合する成分が含まれています。このような成分が甘味受容体に刺激を与えることによって、砂糖や白飯などを甘いと感じるのです。

このとき前述のように、味を区別するための受容体は甘味や酸味などの5種類であり、「辛味受容体」というものは存在していません。そのため辛味は厳密にいうと、味ではありません。

では、辛いものを食べて「辛い」と感じるのはなぜなのでしょうか?

これは、辛い食べ物に含まれている辛味成分が口の中を刺激するためです。

例えば唐辛子などに含まれるカプサイシンには、熱さと痛みを感じる受容体を刺激する作用があります。口の中がカプサイシンによる刺激を受けると、口内が熱くなってヒリヒリとした感覚を生じます。そしてこの現象が辛味の正体なのです。

このようなことから辛いと感じる食べ物には、人体に熱感と痛みを与える成分が含まれているということがわかります。

辛い食べ物は肛門に刺激を与える

カプサイシンなどによる刺激を受けるのは、口の中だけではありません。辛味成分の刺激を受ける受容体は、全身に存在しています。そのためカプサイシンなどの辛味成分は、全身のさまざまなところに作用します。

例えば砂糖や塩を皮膚に乗せても、甘さや塩味などを感じることはありません。これは皮膚に甘味や塩味などを感じる受容体がないためです。

これに対して唐辛子では、ペースト状などにしたものを皮膚に塗るとその部分が赤く腫れてヒリヒリした感覚を生じます。これはカプサイシンが皮膚に存在している受容体を刺激して炎症を起こすことによって生じる現象です。

またリップクリームなどの美容製品の中には、カプサイシンのこのような作用を利用したものもあります。唇に塗られたカプサイシンが唇を赤く腫れ上がらせることによって「ぷるっとした魅力的な唇を作る」のです。

このようにカプサイシンなどの辛味成分は、全身のあらゆる部分に作用します。そのため食べ物から辛味成分を摂取すると、食道や胃などの「辛味成分が触れた場所」に熱感や痛みなどが起こります。

このときカプサイシンなどの辛味成分は、人体で消化吸収されずに便と一緒に排出されます。つまり肛門が辛味成分の作用を受けるのです。

肛門は手足などの皮膚に比べて、刺激に弱い組織です。そのため肛門が辛味成分の影響を受けると、肛門部分に熱感や痛みなどが発症しやすくなります。

このようにして肛門組織に炎症が起こると、いぼ痔や切れ痔などが発症しやすい状態となります。そのため辛味の強い食べ物をたくさん食べたり定期的に食べたりする習慣があると、痔を発症しやすくなるのです。

またいぼ痔や切れ痔などを発症すると、患部に炎症が起こります。肛門部分に炎症が起こると、痛みやかゆみなどが起こります。そのため痔が起こっている状態で辛いものを食べると、炎症が悪化して痔による症状がひどくなりやすいです。

したがって痔の症状を和らげたいのであれば、極力辛いものを食べないようにすることが大切です。

辛い食べ物は下痢を起こしやすくする

前述のように辛い食べ物を食べると、胃腸が辛味成分の刺激を受けます。そうすると胃腸の動きが活発になって、飲食物が胃腸を通過するスピードが早くなります。

このとき飲食物に含まれる水分のほとんどは、腸で吸収されます。そのため飲食物が通過するスピードが早くなると、飲食物に含まれる水分が吸収されないまま肛門へ送り出されることになります。

このような状態になると便の水分量や排便回数などが増えます。つまり下痢になるということです。したがって辛い食べ物は、下痢を引き起こす原因になるのです。

下痢になると排便の回数が増えます。そうすると、その分だけ排便姿勢を取る機会も多くなります。

排便姿勢は肛門部分に血液が溜まりやすいポーズです。そのため排便回数が多くなると、肛門組織にうっ血が起こりやすくなります。

このとき肛門クッションという組織に血液が溜まると、肛門の内側や肛門のそばにぷにぷにとした出来物を生じます。これがいぼ痔(痔核)です。

また下痢によって便の水分量が増えると、排便時に便が肛門を勢いよく通過しやすくなります。そうすると肛門の皮膚部分が便によって傷つき、切れ痔(裂肛)を生じやすくなります。

さらに下痢は、痔の王様であるあな痔(痔ろう)の最大の原因です。

肛門組織と直腸の境目には肛門腺窩(こうもんせんか)と呼ばれるくぼみがあり、奥には肛門腺が存在しています。下痢によって便が水っぽくなっていると、このようなくぼみに便が入り込みやすくなります。

このとき便には、体に害をなす細菌が大量に含まれています。基本的に便の通り道である直腸や肛門などは、細菌が住み着けないような環境になっています。

一方で肛門腺は本来便が入る組織ではないため、直腸や肛門などに比べて細菌に対する抵抗力が低いです。そのため肛門腺に細菌がたどり着くと、肛門腺で細菌が繁殖することがあります。

このようにして繁殖した細菌は、免疫細胞によって退治されます。

ただこのとき免疫力が低下していると、細菌と免疫細胞の戦いが長引くことがあります。そうすると細菌と免疫細胞の死骸が多く発生し、膿を形成します。

このようにして大量の膿を生じると、肛門腺窩から排出しきれなくなります。そうすると、正常に排出しきれなかった膿がおしりの中を流れ進んでいきます。

このとき膿が流れた部分には、管が形成されます。そしてこのような管がおしりの皮膚や腸などにつながると、この部分から膿が排出されるようになります。これがあな痔です。

膿の通り道となった管は、自然に消えることはありません。そのためあな痔を発症すると、手術が必要となります。このようなことから辛いものをたくさん食べる習慣は、取り返しのつかないおしりの病気につながることがあるといえます。

どのような辛いものが痔に悪いのか?

世の中には、さまざまな種類の辛い食べ物があります。例えば唐辛子は、辛い食べ物の代表格です。

また他にも、わさびの辛味は寿司や肉料理などの味を引き立てるために使われています。また胡椒や生姜などは、さまざまな国で料理に使われている辛味食材です。

このとき唐辛子とわさびの味を知っている人は、「これらの辛さは異なる種類のものだ」と感じることでしょう。実際に唐辛子とわさびでは、辛さを感じさせる成分が異なります。

またこれらでは辛さの感じ方や辛味成分の作用などにも違いがあります。そのため痔の発症・悪化を防ぎたいのであれば、「どのような辛味成分が痔に悪いのか」を知っておくことが大切です。

唐辛子の過剰摂取は避けるべき

唐辛子にはさまざまな辛味成分が含まれています。その中でもカプサイシンは、人体に与える影響が大きい辛味成分です。

カプサイシンには血液の流れや新陳代謝などを良くする働きがあります。そのためカプサイシンを摂ると、血行が良くなったり痩せやすくなったりします。

またカプサイシンには、体の表面にある血管を広げたり発汗を促したりする働きもあります。

そのためカプサイシンの摂取量が多くなると、体表の近くを流れる血液から体の熱が放出されて、体が冷えやすくなります。このようなことから東南アジアや南米などの気温が高い国々では、唐辛子を使った料理が数多く食べられているのです。

ただカプサイシンを摂り過ぎると、体にさまざまな害が起こります。

例えば唐辛子の摂取量が多い韓国やインドなどは、他の国に比べて胃がんの発生率が高いという調査結果があります。これは唐辛子に含まれるカプサイシンが、胃に強い刺激を与えて発がんを促すためだといわれています。

また胃への刺激が強いということは、その分だけ下痢の原因になりやすいということです。このことからカプサイシンは、下痢を引き起こして痔を発症・悪化させやすくすることがわかります。

さらに前述のようにカプサイシンは、人の体内で消化されません。そのため口から摂取したカプサイシンは、肛門へ直接的な刺激を与えます。このようなことからも痔の発症や悪化などを防ぎたいのであれば、唐辛子の過剰摂取は避けるべきだといえます。

なお唐辛子の消費量が多い韓国では、1年間に22万人以上が痔の手術を行っているというデータがあります。これに対して日本で行われている痔の手術は、年間2万6千程度です。このことから韓国では、多くの人が痔の手術を行っていることがわかります。

日本人は他の国に比べて、痔によって病院に行く人が少ないといわれています。これは「日本人が我慢しやすい性質をもつためだ」とされています。そのため手術の回数が少ないからといって、韓国よりも痔を患っている人が少ないと断定することはできません。

しかしながら「韓国で痔が多いのは、唐辛子の摂取量が多いためである」と指摘する専門家もいます。このようなことからも痔の症状で苦しみたくないのであれば、唐辛子の摂取量はほどほどにすることが大切です。

場合によっては胡椒系もだめ

わさびの辛味はアリル化合物によるものです。このような辛味成分は、玉ねぎや大根、にんにくなどにも含まれています。そのためわさびとネギ、大根、にんにくなどは、同じ種類の辛さを呈しているといえます。

アリル化合物は体内で分解されて別の物質になります。そのため、わさびなどによってアリル化合物を多く摂っても、辛味成分が肛門を刺激することはありません。

一方で胡椒に含まれている辛味成分であるピペリンは、カプサイシンと似たような働きを持ちます。

ピペリンの人体への作用は、カプサイシンよりも弱いです。ただピペリンの摂取量が多くなると、その分だけ肛門への刺激や下痢などが起こりやすくなります。そのため痔の発症や悪化などを防ぎたいのであれば、唐辛子だけではなく胡椒の大量摂取にも注意する必要があります。

特に、すでに痔を発症している人や下痢を起こしやすい人などは、胡椒による刺激で痔や下痢などが悪化しやすくなります。そのためこのような人は、「唐辛子よりも刺激が弱いから安心である」と思い込まずに、胡椒の摂取量を控えめにすることが大切です。

どの香辛料であっても食べ過ぎは危険

前述のようにわさびに含まれる辛味成分は、体内で分解されます。またしょうがに含まれる辛味成分も同様に、そのままの形で肛門にたどり着くことはありません。そのためこれらを多く食べても、肛門が辛味成分による刺激を受けることはありません。

ただこれらの辛味成分は、分解される前に胃へ到達します。そのため胃は、わさびや生姜などに含まれる辛味成分による刺激を受けます。

辛味成分の刺激によって胃の動きが活発になると、これと連動して腸の動きが活発になりやすくなります。つまり下痢を生じやすくなります。このことからわさびなどを食べすぎると、下痢になるリスクが高くなることがわかります。

そのため、わさびや生姜などに含まれる辛味成分は肛門への刺激はないものの、食べ過ぎると下痢によって痔を発症・悪化しやすくなるということを理解しておくことが大切です。

そして辛い食べ物は、食べているうちに辛味を感じにくくなっていきます。そのため辛い食べ物を頻繁に食べていると、辛味の強いものを食べるようになりがちです。

辛味が強い食べ物には、その分だけ多くの辛味成分が含まれています。このことから辛味の強い食べ物は、痔が起こったり悪化したりするリスクが高いといえます。

したがって「辛いものにハマっているな」と感じたら、辛味の弱いものを食べたり辛いものの摂取頻度を抑えたりするように意識しましょう。

痔に悪影響を与えない辛いものの食べ方

これまでに述べたように、辛い食べ物は痔に悪影響があります。ただ世の中には「辛くて美味しいもの」が多数存在しています。また辛味成分には、体に有益な作用も多いです。そのため痔を防ぐためとはいえ、辛い食べ物を断絶するというのはもったいないといえます。

さらにカプサイシンなどの辛味成分には、脳に快感をもたらす作用があることが確認されています。そのため普段から辛いものを多く食べている人は、辛い食べ物を我慢しようとするとストレスが溜まりやすくなります。

強すぎるストレスは体にさまざまな悪影響を与えます。そして痔も、その悪影響のひとつです。そのため「辛いものが好きだけれど、痔で苦しみたくない」という人は、辛いもの食べ方を工夫してみるようにしましょう。

手術後は辛いものを食べない

前述のようにあな痔は、手術しなければ治りません。またいぼ痔や切れ痔なども、悪化すると手術が必要となります。

痔の手術を行うと、肛門付近に傷ができます。カプサイシンなどの辛味成分は、このような傷に染みて強い痛みを引き起こします。そのため手術後に辛いものを食べると、食べた量が少量であっても肛門に激しい痛みが起こります。

また傷口にカプサイシンが入り込むことによって炎症が起こると、痛みが起こるだけではなく傷が治りにくくもなります。そのため手術後には、唐辛子や胡椒などを含む料理を極力避けるべきだといえます。

さらに手術によって生じた傷に便が入り込むと、あな痔が起こりやすくなります。そのため痔の手術後には、下痢にならないように細心の注意を払う必要があります。したがってあな痔を防ぐためにも、手術後には下痢の原因となる辛い食べ物を避ける必要があります。

激辛を避ける

基本的に料理に含まれている辛味成分の量が多くなると、その分だけ辛さが増します。このことから「激辛」と表示されている食べ物には、かなりの量の辛味成分が含まれていることになります。

このとき辛味成分の摂取量が多くなると、その分だけ辛味成分を摂ることのデメリットが多くなります。

例えば唐辛子やわさびなどの摂取量が多くなると、その分だけ下痢が起こりやすくなります。またカプサイシンの摂取量が多くなるほど、肛門に痛みや腫れなどが起こるリスクが高くなります。

このようなことから痔への悪影響を避けたいのであれば、「激辛」と表示される食べ物を避けるようにすることが大切です。

どうしても辛いものを食べたいときは?

前述のようにカプサイシンには、気分を快適にさせる作用があります。そのためカプサイシンを含む食べ物には、習慣性があるとされています。

辛いものを食べるのが習慣になっている人は、辛い食べ物を我慢することが苦痛に感じます。そして我慢しすぎると、反動で大量の辛いものを食べてしまいやすくなります。そのため「どうしても辛いものが食べたい」というときは、我慢しすぎずに少しだけ食べるようにすることをおすすめします。

このとき牛乳を含む乳製品やパン、砂糖などの炭水化物には、カプサイシンが受容体と結合するのを阻害する働きが確認されています。つまりこれらの食べ物は、カプサイシンによる体への刺激を減らしてくれるということです。

そのためどうしても辛いものが食べたいときは、辛いものと一緒に乳製品や炭水化物などを多めに摂るようにしましょう。そうすることで痔への悪影響を少しだけ和らげることができます。

まとめ

一般的に体にいいと思われがちな辛い食べ物には、肛門に刺激を与えたり下痢を引き起こしたりする作用もあります。そのため辛いものを食べすぎると、痔を発症したり痔が悪化したりしやすくなります。

痔になると肛門部分に強い痛みや出血などが起こり、歩いたり座ったりなどの日常動作がつらくなります。また最悪の場合、手術しなければ治らない痔に発展することもあります。そのため痔で苦しまないためには、辛いものの摂取量をほどほどにしておくことが大切です。

ただ辛いものが好きな人が辛いものを食べないようにすると、ストレスが溜まります。そうすると、かえって痔が起こったり悪化したりしやすくなります。

また我慢しすぎると、反動で辛いものを大量に食べてしまうことにもつながりかねません。そのため痔を発症・悪化させないためには、辛いものとうまく付き合うことが大切です。そうすることによって好きな食べ物を我慢せずに、痔で苦しむリスクを減らすことができます。