もし現在、あなたにおしりの痛みや肛門からの膿、発熱などの症状が起こっているのであれば、もっとも厄介な痔であるあな痔を発症している可能性が高いです。

痔とは肛門に生じる病気の総称であり、いぼ痔や切れ痔、あな痔などのさまざまな種類があります。

これらのうち、いぼ痔や切れ痔などは適切な処置や生活習慣の見直しなどによって治る病気です。

これに対して、あな痔は自然に治ることがありません。さらに、あな痔を放置すると重篤な病気が発症しやすくなります。このことから、あな痔は治しづらく恐ろしい病気であることがわかります。

では、あな痔とはどのような病気であり、どのようにして発症するのでしょうか? また、あな痔を発症したらどうすればいいのでしょうか?

そこで、ここではあな痔の発症メカニズムと原因、症状などについて解説し、あな痔を発症したときの対処法を述べていきます。

あな痔とは?

あな痔のことを正式には痔瘻(じろう)といいます。医学用語での瘻とは、「体内の本来存在しない場所に生じる管状の空間=穴」のことを意味します。

つまり、痔瘻とは本来存在しない部分に穴を生じる痔であるということです。このことから、一般的に痔瘻はあな痔(穴痔)と呼ばれています。

あな痔の前段階である「肛門周囲膿瘍」

肛門を内部に進んでいくと、肛門と直腸の境目部分に歯状線という組織があります。

歯状線には肛門腺窩(こうもんせんか)というポケット状のくぼみが約10個存在しています。また、それぞれの肛門腺窩の中には肛門腺があります。

肛門腺窩は上向きになっている穴です。そのため、便が歯状線を通過する際、肛門腺窩に便が入り込むことがあります。

便には大腸菌などの人体に有害な菌が含まれています。そのため、便が通過する腸や肛門などは細菌に対して強い免疫力を持っています。

ただ、何らかの原因によって免疫力が低下していると、肛門腺窩に入り込んだ便によって肛門腺が細菌感染を起こすことがあります。

細菌感染が起こると、体内にいる免疫細胞が細菌をやっつけるための反応が起こります(炎症)。そうすると、細菌や免疫細胞などが戦うことによって多数の死骸が生まれ、それが膿(うみ)となります。

このとき、肛門腺は穴(肛門腺窩)の中にあります。そのため、肛門腺に生じた膿は排出されにくく、溜まっていきやすいです。このようにしておしりの内部に「膿のたまり場=膿瘍(のうよう)」ができる病気を肛門周囲膿瘍といいます。

肛門周囲膿瘍を発症すると、溜まった膿によっておしりに腫れや痛みなどを生じます。また、肛門腺窩から膿が溢れて、肛門から膿が排出されることがあります。さらに、発熱を伴うことも多いです。

肛門周囲膿瘍は適切な治療をすることによって治ります。また、中には自然に治癒する人もいます。ただ、肛門周囲膿瘍のうち約半数は、悪化によって痔ろうを発症しているといわれています。

肛門周囲膿瘍があな痔を引き起こすメカニズム

すでに述べたように、肛門腺に生じた膿は肛門から排出されにくい状態にあります。そのため、肛門周囲膿瘍が悪化・長期化すると、肛門腺に多くの膿が溜まることになります。

このとき、地面の中を水が侵食していくときには、水が地中の石を避けるようにして流れ進んでいきます。

これと同様に、肛門周囲膿瘍によって生じた膿は、出口を求めて「おしりの中の圧力が低い方向」を侵食していきます。

膿が体内を流れ進んでいっておしりに膿の出口が作られると、この部分から膿が排出されるようになります。このようにしておしりの中に膿の通る道ができる病気を痔ろうといいます。そして、膿の通る道は瘻管(ろうかん)、うみの出口を瘻孔(ろうこう)といいます。

膿の通り道ができると、管の内部が皮膚で覆われます。このような状態になると、膿の通り道が自然になくなることはありません。つまり、痔ろうは自然に治癒することがない病気であるということです。

多くの場合、膿の通り道は皮膚に向かって進んでいきます。そのため、膿の出口は皮膚にできることが多いです。

ただ、中には瘻管がおしりの内部の方へ進んでいくことがあります。そのため、痔ろうの中には皮膚から膿が排出されないこともあり、このタイプの痔ろうは発覚が遅れることが多いです。

あな痔を放置するとどうなる?

おしりの内部に膿が溜まっていると、おしりが赤く腫れて痛みや発熱などを生じます。

一方で、膿が皮膚などから体外へ排出されると、腫れや痛み、発熱などが治まります。そのため、肛門周囲膿瘍が痔ろうへと進行し、膿が排出されるとこれらの症状は落ち着きます。

ただ、再び同じ肛門腺が細菌感染を起こすと、腫れや痛みなどの症状が起こって膿が溜まっていきます。そうすると、膿が新たな瘻管を形成することがあります。

このようにして複雑な膿の通り道ができると、その分だけ治療が難しくなります。そのため、痔ろうを放っておくと、病院にかかっても完治しづらい難治性の痔ろうとなります。

また、痔ろうを放っておくと、まれに痔ろうがんを発症することがあります。痔ろうがんは10年以上痔ろうを患っている人に多く起こるといわれています。

痔ろうがんは熟練の専門医でも初期での発見ができない病気です。これは、痔ろうがんは通常の痔ろうと同様の症状を生じるためです。そのため、痔ろうがんを発見した頃には、がんがかなり進行しているというケースが多いです。

このように、痔ろうは放っておくと治りづらくなり、がん発症の引き金ともなりえる病気です。そのため、痔ろうを発症したらすぐに治療に当たることが大切です。

あな痔が起こる原因

痔ろうは昔、結核菌が引き起こす病気だと考えられていました。実際に、過去には痔ろうで生じた膿に結核菌が含まれていたケースがあります。また、結核が不治の病であった時代では、結核性の痔ろうが多く存在していました。

もし痔ろうが結核菌による病気であるならば、自分の力だけでは予防することができません。どんなに気をつけていても風邪を引くことがあるように、ウイルスや細菌などの病原体が体内に入ることを防ぎ切ることはできないからです。

ただ、さまざまな研究や調査などの結果、現在起こっている痔ろうを引き起こしているのは結核菌が原因ではないことが判明しています。すでに述べたように、肛門腺に感染して痔ろうを引き起こすのは腸内細菌です。

しかしながら、腸内細菌は胎児以外のすべての人間がもつものです。そのため、腸内細菌が痔ろうの原因であるとするならば、多くの人に痔ろうが発症することになります。このことから、痔ろうは腸内細菌の存在だけが原因であるとはいえません。

では、痔ろうは何が原因で発症するのでしょうか? これは、悪い生活習慣が原因であるといえます。

便秘や下痢などは痔ろうの大きな原因の1つ

一部例外を除いて、痔ろうは肛門腺窩に便が入り込むことによって起こります。これを言い換えると、肛門腺窩に便が入り込まなければ痔ろうは起こらないということになります。

通常、便は腸から分泌された粘液に包まれて腸や肛門などを通過します。そのため、便の状態が健康的であれば、便は直腸や肛門などと擦れることなくスルリと出てきます。

このような状態では、便が肛門腺窩に入ることはありません。そのため、健康的な排便をしていれば、痔ろうになることはないといえます。

このとき、便の水分量が多いと粘液が便を包むことができません。そのため、このような便は健康的な便に比べて、肛門腺窩に入り込みやすい状態になるといえます。

さらに、便の水分量が多いと排便時に肛門を通過するスピードが早くなります。そうすると、便が勢いよく流れることによって肛門腺へ押し込まれやすくなります。

このようなことから、便の水分量が増えた状態=下痢は、痔ろう発症のリスクを高めることがわかります。実際に、慢性的だったり頻繁に起こったりする下痢は、痔ろうの発症リスクをもっとも高める状態といわれています。

一方で、便の水分量が少ないと便が硬くなって排便しづらくなります。そうすると、強くいきまなければ排便することができなくなります。

このような状態になると、強いいきみによって便が肛門腺窩へ押し込まれやすくなります。そのため、下痢だけではなく便秘も痔ろうの原因になるのです。

痔ろうは女性よりも男性の方が患者数が多い病気です。実際に、男性の痔ろう発生頻度は女性の5~6倍であるといわれています。

一般的に、男性は女性よりも筋肉が発達しています。そのため、男性は排便の際のいきみが強く、便が肛門を通過する勢いが強めです。

また、男性は女性に比べて下痢になりやすいという性質もあります。このようなことから、男性は女性に比べて痔ろうになるリスクが高いといわれています。

ただ、これは女性が痔ろうになりにくいということを意味するわけではありません。

女性は男性よりも筋力が少ない分だけ、排便する力が弱く便秘を起こしやすいです。さらに、生理前に分泌量が多くなる女性ホルモンには、便秘を起こしやすくする作用があります。

さらに、女性の中には便秘薬を常用している人が多いです。便秘薬の中には自力で排便する力を弱めるタイプのものがあります。そのため、このタイプの便秘薬を長期間使用していると、自力で排便できない便秘体質になります。

通常、便が直腸に送り込まれると便意が起こります。ただ、便秘が慢性的になると、だんだん便意を感じにくくなっていきます。

そうすると、肛門腺窩のそばに便がある状態が長く続きます。このような状態で強くいきむと、肛門腺窩に便が入り込む危険性が高くなります。このことから、便秘になりやすい女性は痔ろうリスクが高いといえます。

そして一般的に、女性は男性よりも痔で病院にかかることを「恥ずかしい」と思いがちです。そのため、痔ろうを発症した女性の中には、病院に行かずに症状を我慢しているケースが多いといわれています。

このようなことから、女性の痔ろう患者数は実際よりも少なく見積もられているといわれています。そのため、痔ろうは男性に多い病気というのが通説ではあるものの、専門家によっては発症のしやすさに男女差はないとしている人もいます。

ストレス・疲労、睡眠不足

下痢や便秘などは痔ろう発症の最大のリスクとなります。ただ、下痢・便秘などを一度も経験せずに過ごすことは不可能でしょう。

実際に、下痢は食あたりや風邪などによって起こることがあります。また、強いストレスを感じたり腸に負担のかかる食事を摂ったりしたときには下痢や便秘など起こりやすくなります。

さらに、新生活が始まった時や旅行中などの生活リズムが崩れた際には下痢・便秘が起こりやすいです。そして、女性の生理前や妊娠中などの便秘は体の仕組みによって起こるものなので、防ぎきれるものではありません。

ただ、下痢や便秘などによって肛門腺窩へ便が入り込んでも、必ず痔ろう・肛門周囲膿瘍を発症するわけではありません。免疫機能がしっかり働いていれば、便に含まれている有害菌が肛門腺に感染することはないのです。

しかしながら、ストレスが溜まっていたり体が疲れていたり睡眠時間が不足していたりすると、免疫力が低下しやすくなります。このことから、ストレスや疲労、睡眠不足などは痔ろうの原因となることがわかります。

また、風邪などの病気にかかった時には、免疫が風邪を治すために働きます。そうすると、風邪以外に対する免疫機能の働きが通常よりも手薄な状態になります。

そのため、風邪を引いた時や風邪が治ったばかりの時などは、肛門周囲膿瘍を発症しやすい状態になっています。このことから、痔ろうの発症リスクを下げるためにも、風邪を引いたときには普段よりも休息を増やす必要があるといえます。

食生活の悪化

便は食べ物のカスでできています。そのため、食事の内容は便の状態に直結します。

例えば、野菜や果物などの植物性食品を食べる量が少ないと、食物繊維の摂取量が少なくなります。

食物繊維には、便の量や水分量などを増やして便秘を予防・改善する働きがあります。そのため、食物繊維の少ない食事ばかりを取っていると便秘になりやすくなります。

また、アルコールや辛いものなどには腸を刺激する作用があります。そのため、このような飲食物を取る事が多いと下痢を生じやすくなります。このようなことから、便秘や下痢などになりやすい食事を摂っていると痔ろうの発症リスクが高くなるといえます。

さらに、食事の内容は便の状態だけではなく、腸の状態にも影響を与えます。

腸内に住んでいる細菌は、善玉菌と悪玉菌の2種類に大別されます。これらのうち、感染症を引き起こすのは悪玉菌です。

悪玉菌は善玉菌が放出する酸が苦手です。そのため、腸内に善玉菌が増えると悪玉菌の数が減りやすくなります。一方で、善玉菌が減少すると悪玉菌の数が増えやすくなります。

また、善玉菌は食物繊維をエサにして増殖します。一方で悪玉菌は、タンパク質や脂質などを栄養にして増殖します。そのため、食物繊維の摂取量が少なかったりタンパク質・脂質の摂取量が多かったりすると、腸内の悪玉菌が増えやすくなります。

腸内の悪玉菌が増えると、その分だけ便に含まれる悪玉菌の量も多くなります。そのため腸内環境が悪化すると、肛門腺が細菌感染を起こすリスクが高くなるといえます。

また、悪玉菌は腸の働きを低下させる毒素を放出します。そのため腸内の悪玉菌が増えると、便秘や下痢などの排便異常が起こりやすくなります。

さらに、悪玉菌は免疫機能の敵です。そのため、悪玉菌が多くなるとその分だけ免疫が働かなければならなくなります。そうすると、免疫機能が疲弊・低下しやすくなります。

このように、腸内環境の悪化は痔ろうを発症しやすくするさまざまな症状を引き起こします。

そして腸内環境の悪化は低質な食事内容によって起こります。このようなことからも、食事の内容は痔ろう発症の間接的な原因になるということが分かります。

あな痔の治療方法

これまでに述べたように、あな痔は手術しなければ治りません。また、あな痔を放っておくとがんなどの重篤な病気を発症しやすくなります。そのため、あな痔を発症したら速やかに病院に行くべきです。

多くの場合、あな痔はメスによる切除手術で治療されます。また、痔ろうが複雑な状態になっている場合、一時的に人工肛門をつけて手術されるケースがあります。

人工肛門をつけると肛門に便が通らなくなるため、痔ろうの患部に便が流れ込む心配がなくなります。そうすると、便によって患部が炎症を起こしたり傷の治りが遅くなったりすることがなくなります。

またあな痔の状態によっては、瘻管と肛門にゴム紐を通して治すこともあります。このようにすると、体がゴム紐を外に出そうとする反応によって瘻管が徐々に外側へ移動していきます。

そして、数カ月後には痔ろうがなくなり、ゴム紐が体外へ排出されます。このような治療法をシートン法といいます。

このように、あな痔は症状や病態などに合わせてさまざまな方法で治療されます。ただ痔ろうの治療は、どのような方法であっても治るまでに長い期間を必要とします。

多くの場合、長期で入院するためには会社を休んだり子供の面倒を誰かに見てもらったりなどの入院準備が必要となります。そのため、緊急を要する場合を除き、病院で痔ろうと診断されても即日手術となることはありません。

あな痔の症状が出たときの応急手当の方法

これまでにあな痔の原因や症状などについて述べてきました。そのため、心あたりがあるのであれば、すぐに病院に行くべきです。

ただ、仕事や子育てなどの事情によって、病院に行きたくてもすぐには行けないというケースがあるかと思います。このような場合、病院に行くまでの間あな痔を応急手当しなければならなくなります。

一般的に、痔を生じたら患部を温めた方がいいといわれています。実際に、いぼ痔や切れ痔などは温めることによって症状が緩和します。

一方で、あな痔は温めてはいけない痔です。あな痔を発症しているとき、おしりの中に炎症が起こっているためです。そのため、あな痔を温めると症状が悪化しやすくなります。

あな痔によっておしりに痛みを生じているのであれば、熱をもった部分を氷のうや保冷剤などで冷やすようにしましょう。このとき、これらを直接肌に当てると皮膚に凍傷が起こります。そのため、必ずタオルを挟んで氷のうなどを当てるようにしましょう。

また、おしりから膿が出ていると、肛門周りが膿で汚れます。これを放っておくと、膿によって皮膚がかぶれやすくなります。そのため排便後などにおしりが汚れたら、入浴や座浴などによって肛門付近をきれいに洗い流すようにしましょう。

このとき石鹸などでゴシゴシ洗うと、患部がダメージを受けて症状が悪化しやすくなります。そのため痔ろうの患部を洗う時は、ぬるま湯のみを使用して手で優しく汚れを流すようにしましょう。

膿による下着の汚れが気になる時には、生理用ナプキンを使用することをおすすめします。そうすることで、膿が吸収されて下着が汚れなくなるだけではなく、ナプキンがクッションの役割を果たして患部の痛みが軽減しやすくなります。

このとき、使用する生理用ナプキンは「夜用」と書いてあるものにしましょう。夜用ナプキンはおしり側が広く設計されているため、昼用のものよりも肛門からの膿をカバーしやすくなります。

ただ、中には「男が生理用ナプキンを買ったら怪しまれるのではないか」と躊躇してしまう男性もいることかと思います。このような場合は、ドラッグストアに駐在している薬剤師などに会計をお願いすることをおすすめします。

一般的には知られていないものの、生理用ナプキンは痔による出血や膿などで下着を汚さないためにも使われています。

実際に、痔で病院にかかった場合、生理用ナプキンの使用を薦められることは多いです。そのため、病気の知識に詳しい薬剤師などであれば、男性が生理用ナプキンを買うことに疑問を覚えることはないといえます。

まとめ

数ある痔の中でも、あな痔はもっとも厄介な痔です。実際に、あな痔は手術しなければ治ることがなく、悪化するとがんに発展する危険性があります。そのため、あな痔が疑われたらすぐに病院に行く必要があります。

ただ病院であな痔を治療しても、前述したような「あな痔を発症しやすくする生活」を送っていればあな痔が再発します。そして、あな痔の再発を繰り返すと、複雑なあな痔を発症することにつながります。

そのため、あな痔の症状が出たらまずは応急手当を行い、なるべく早く病院に行きましょう。そして、病院であな痔を治療したら、あな痔の原因となる悪い生活習慣を改善するようにしましょう。

そうすることで、おしりの痛みや下着の汚れなどから開放されて健康的な日常を長く続けることができるようになります。