一昔前までは、「いぼ痔の外科的処置=いぼ痔の切除」が常識でした。

このような切除手術では、治療効果が高い一方で術後に強い痛みを生じやすいです。また通常、術後の痛みが強い場合は入院期間が長くなり、その分だけ治療費がかかります。そのため、いぼ痔(脱肛)の手術はこれらの理由によって、敬遠されがちでした。

ただ、現在では「切らない手術」と呼ばれるALTA療法が存在しています。この治療法では注射でいぼ痔の治療を行うため、痛みがほとんどなく入院期間も短くて済みます。

一方で、この治療法は比較的新しい方法であるため、将来的なリスクが危惧されているという一面もあります。

では、ALTA療法とはどのような治療法なのでしょうか? ここではALTA療法のメリットやデメリット、治療の際に必要となる費用、さらには副作用まで解説していきます。

ALTA療法とは

ALTA療法とは、「ALTA」という薬剤を4段階に分けていぼ痔(脱肛)に注射する治療方法のことです。ALTAは「硫酸アルミニウムカリウムタンニン酸」の略であり、ミョウバンの一種です。

また、ALTAが「ジオン注」という名前で販売されていることから、ジオン注射とも呼ばれています。

ジオン注の製剤写真

ALTA療法は、1970年台に中国で開発された方法を元に開発された治療法です。具体的にいうと中国では昔から、消痔霊という薬剤をいぼ痔に注射する方法が存在していました。

ALTAは、消痔霊における添加物の一部を変更して作られた、消痔霊とほぼ同じ成分の薬剤です。2005年に日本の製薬会社から発売されました。これ以降、ALTA療法は日本中のさまざまな肛門科医院にて採用されています。

ALTA療法はメスを使用して患部を切る治療法ではないため、手術には当たりません。ただ、ALTA療法では手術と同じくらい治療効果が得られるため、「切らない手術」と呼ばれることがあります。

ALTA療法はどのようにして行うのか?

ALTA注射では、1つのいぼ痔に対して10~13mlの注射液を使用します。また、この量の薬剤を、いぼ痔の「上部の粘膜下層」「中央部の粘膜下層」「中央部の粘膜固有層(表面)」「下部の粘膜下層」の4箇所に分けて注入します(4段階注射)。

ALTAをこのような4つの部分に注入するためには、いぼ痔の状態を正しく見極める能力と高度な技術が必要となります。そのため、ALTA療法は4段階注射の技術を習得した医師しか行えないことになっています。

ALTAがいぼ痔に注入されると、いぼ痔に炎症反応が起こります。するといぼ痔が小さくなっていき、最終的には痔核のない健康的な状態になります。

ALTA注射法って本当に痛くないのか

一般的に、「注射には痛みが伴うもの」とされています。実際に、採血や予防接種などの注射には、針が刺さる際の痛みを伴います。

また、体質などによっては、注射が終わった後も痛み・痒みを感じることがあります。そのため、痛くないとされているALTA注射であっても、「少しは痛みがあるはずである」と考える人は多いです。

ただ実際には、ALTA注射には痛みを伴いません。これは、ALTA注射の対象となるいぼ痔が発生する組織には、「痛みを感じる神経」が存在していないためです。そのためALTA療法では、治療中だけではなく治療後も痛みを生じることはなく、麻酔を使用する必要もありません。

もちろん、注射を行うためには肛門鏡をおしりの中に入れる必要があります。このとき一般的には、肛門鏡を力任せに肛門内に差し込むようなことはありません。そのため、肛門鏡を肛門内に入れる際に痛みを感じることはないです。

ただ、緊張しやすい人の場合はおしりに力が入って、肛門鏡が入れられなくなったり痛みを生じたりすることがあります。そのため、このような体質の人は、肛門の力を緩めるために麻酔を使用することがあります。

ALTA療法の所要時間

通常、いぼ痔を切除する手術を行った場合には、10~14日程度の入院期間を必要とします。病院によっては日帰りを選択することが可能であるものの、手術当日は痛みで動けないことがほとんどであるため、誰かの介助なしには生活できないのが実情です。

これに対してALTA療法では、術後の痛みがないため即日帰宅しても問題なく生活することができます。また、この治療法における入院期間は長くても2泊3日です。

ALTAの注入は10~15分の短時間で終わります。注射後は30~1時間程度安静にしている必要があるものの、その後は普通に動くことができます。このようなことから、ALTA療法は所要時間がかなり短い治療方法であることがわかります。

ALTA療法のデメリットとリスク

ALTA療法は、いぼ痔を切除する治療法に比べて痛みが少なく、治療にかかる時間・期間が短いというメリットがあります。

これらは、多くの人にとって喜ばしい点です。実際に、ほとんどの人は痛みが苦手です。そのため、「治療に痛みを伴わない」という特長は、痔持ちの人にとって魅力的な響きがあります。

また、現代の日本では、仕事の忙しさによって病気治療のための休みを確保できないという人が多いです。

さらに、治療目的で休みを取るためには、病気の内容を会社に報告する必要がある場合がほとんどです。

ただ、現在の日本では、「痔=恥ずかしい病気」という認識である人が多いです。特に女性では、会社に痔であるという事実を知られたくないという思いから、治療のための休暇を取れないという人も多いです。

以上のようなに人にとっては、「その日のうちに帰れて次の日から仕事ができる治療法」という点が大きなメリットに感じられます。このようなことからALTA療法は、夢のような治療法と語られることがあります。

しかし、どのような治療法であって、メリットとデメリットの両方が存在するものです。そして、これはALTA療法も例外ではありません。

また、ALTA療法は他の方法に比べて、歴史の浅い治療方法です。そのため、後遺症を含めALTA療法のリスクはいまだ不明瞭な部分が多いのが現状です。

ALTA療法は再発率が高い

いぼ痔にはALTA療法以外にも、結紮切除法やレーザー療法などのさまざまな治療法があります。

これらはどれも、いぼ痔を切除する治療法であり、治療効果が現れやすく再発しにくいという特長があります。具体的にいうと、手術が効かなかったり手術後1年以内に再発したりしたケースは、結紮切除法で2%・レーザー療法は1.5%となっています。

これに対して、2005年の認可当初におけるALTA療法の無効・再発例は、1年以内で23%です。つまり、ALTA療法は他の治療法に比べて、効果が現れにくく再発しやすい治療法であるということを意味します。

ALTA療法が適用となる痔は少ない

結紮切除法は、さまざまなタイプのいぼ痔を治療することができます。

一方で、ALTA療法はすべてのタイプのいぼ痔に利用できる方法ではありません。そのため、ALTA療法による治療を成功させるためには、いぼ痔のタイプをしっかり見極めて治療に当たる必要があります。

また、適用ではないいぼ痔にALTA療法を利用すると、いぼ痔が再発したり副作用が生じたりしやすくなります。

また、すでに述べたように、ALTA療法は特別な研修を受けた資格医しか施術することができません。ただ、医師によって知識や技術などに差があるのは事実です。

そのため、医師がいぼ痔の状態を見誤って「適さないいぼ痔」にALTAを注入すると、術後に再発したり副作用が生じたりするリスクが高くなります。

ALTA療法の副作用

どのような治療法であっても、副作用は存在します。ALTA療法も同様に、血圧の低下や発熱、下腹部痛、ムカムカ感などの副作用を生じることがあります。

また、ALTAは注入した組織に炎症を起こさせる薬剤です。そのため、ALTAが正しい場所に注入されないと、正常な組織が炎症を起こしてさまざまな症状が現れます。

さらに、必要量以上のALTAをいぼ痔に注入すると、ALTA療法の作用がいぼ痔以外にも及ぶことがあります。すると、正常な組織がALTAの影響を受けて重篤な症状を生じることがあります。

実際に2011年の報告では、ALTA療法を受けた3519人のうち、364人に副作用が発生したことを確認しています。また、この中には、直腸に潰瘍を生じたり直腸が狭くなったりなど、後遺症を含め重篤な症状もありました。

さらに、ALTA療法を受けた患者が10日後に合併症を発症し、その5日後に死亡したケースもあります。具体的な死亡原因については、2017年段階で明らかにされていません。

「正しい位置に適切な量のALTAを注入するようにすることで、このような副作用・合併症はほとんど起こらない」とされています。

ただ、すでに述べたように医師の技術は人によって異なります。そのため、ALTA療法を受ける場合は、このような副作用・合併症が起こるリスクがあることを認識する必要があります。

ALTA療法の危険性とは?

ALTAは、アルミニウムを主成分とした薬剤です。そのため、ALTA療法を行うと、多くのアルミニウムが体内に入ることになります。

厚生労働省が定める安全なアルミニウム摂取量は、口から摂取した場合で1日あたり50mgとなっています。

また、アルミニウムを口から摂取した場合の吸収率は1%というデータがあります。このことから、体内に直接アルミニウムが入る場合における安全なアルミニウム摂取量は、「50mg×0.01(1%)=0.5mg」であることがわかります。

これに対して、1つのいぼ痔を治療するために10mlのALTAを注入すると、200mgのアルミニウムが体内へ入ります。これは、安全であるといわれているアルミニウム摂取量の400倍の量になります。

このとき、いぼ痔の数が2つや3つなどになっていると、その分だけ体内に注入するALTAの量が増えます。すると、それに応じて体内に入るアルミニウムの量も増加することになります。

ただ、体内のアルミニウム量が過剰になりすぎると、アルツハイマー病に似た症状が出ることがわかっています。この症状は、人工透析を行っている患者に起こるため透析脳症と呼ばれています。

通常体内に入ったアルミニウムは、尿に混じって体外へ排出されます。ただ、尿を作る組織である腎臓機能が低下していると、アルミニウムの排出が上手くいかなくなります。

人工透析は、機能が低下した腎臓の代わりに体内の毒素を排出する治療法です。しかしながら過去には、人工透析に水道水が使用されており、それによって透析を受けた人の血液中アルミニウムが増加していました。

腎臓機能が低下している状態で血液中のアルミニウムが増えると、脳がダメージを受けて言語障害や精神障害などの認知症のような症状を生じます。

そのため、腎臓機能が低下している人がALTA療法を受けると、重篤な症状が現れる危険性があります。このようなこともあり、ALTA療法を推奨していない医師は一定数存在しています。

ALTA療法が適用となるいぼ痔とは?

ALTA療法は、適用となるいぼ痔が限られている治療法です。そのため、「いぼ痔を切りたくないから」といってALTA療法を希望しても、場合によっては受けられないことがあります。

具体的には、以下のようなタイプのいぼ痔にはALTA療法が適用できないのが基本です。

肛門の外にいぼ痔ができていると使えない

肛門の内側に生じるいぼ痔は、内痔核と呼ばれます。これに対して、肛門の外側に生じるいぼ痔は外痔核といいます。これらのうち、ALTA療法が適用となるのは内痔核のみです。もっといえば、「脱肛を伴う内痔核」になります。

外痔核を生じている場合、ALTA療法は適用となりません。つまり、外痔核が併発している場合、内痔核にもALTAが使えないということです。

すでに述べたように、肛門の内側には痛覚がありません。そのため、内痔核には痛みを伴いません。一方で、外痔核が生じる組織には痛覚があるため、外痔核が生じると強い痛みを感じます。

このようなことから、強い痛みを伴っているいぼ痔にはALTA療法が利用できない可能性が高いといえます。

小さいいぼ痔・大きすぎるいぼ痔、切れ痔は適用外

いぼ痔には、Ⅰ~Ⅳ度の進行度合いがあります。

具体的にいうと、血便以外の自覚症状がないいぼ痔をⅠ度、排便時にいぼ痔が肛門から出てくる場合をⅡ度、肛門からいぼ痔が脱出したままであるものの指で押したら戻る状態をⅢ度、指で押してもいぼ痔が肛門内に戻らない状態をⅣ度といいます。

これらのうち、通常ALTA療法の対象となるのはⅢ度のいぼ痔のみです。そのため、いぼ痔が小さかったり大きすぎたりする場合はALTA療法が適用となりません。

さらに、ALTA療法は切れ痔が生じている場合にも利用できません。

切れ痔では、肛門付近の痛みや出血などを伴います。そのため、いぼ痔にこれらの切れ痔症状を伴っている場合は、いぼ痔をALTA療法で治療することはできません。

治療法の併用によって適用を拡大している病院がある

これまでに述べたように、ALTA療法の対象となるいぼ痔の種類は少ないです。そのため、病院に行ってALTA療法の治療をお願いしても、希望通りにはならないことがあります。

ただ、いぼ痔の治療は医師の知識や技術などによって大きく変わります。

実際に、肛門科の病院の中には、ALTA療法を他の治療方法と合わせて行うことによって、ALTA療法の適用を拡大しているケースがあります。

例えば、ALTA療法を切除手術などと併用すると、外痔核を併発している内痔核をALTA療法で治療することができます。また、形成術と併用すると、本来であれば適用外となるⅣ度のいぼ痔をALTA療法で治療することができます。

ただ、このようなALTA療法と他の治療方法の併用には、全国的なガイドラインがありません。そのため、ALTA療法の併用療法を行える病院・医師は限られています。

また、肛門科の医師の中には、ALTA療法を推奨していない人がいるということはすでに述べた通りです。このようなことから、いぼ痔を切らずに治療したいと医師に伝えても、希望が叶えられないケースがあることを認識するべきだといえます。

ALTA療法にかかる費用

ALTA療法は治療後に入院せず、そのまま帰ることができる治療法です。入院をしなければ、その分だけ治療費が安くなります。そのため、入院するのが一般的な切除手術に比べて、安く治療ができます。

しかし、入院するかどうかは本人の意思だけではなく、病院の指針によっても変わります。そのため、ALTA療法の場合にも入院を推奨する病院では、入院期間に応じて治療費が高くなります。

ALTA療法は健康保険の対象となる?

ALTA療法は、健康保険における適用内の治療法です。そのため、ALTA療法による治療費は全体の3割負担となります(後期高齢者は1割負担)。

具体的にいうと、ALTA療法にかかる治療費は3割負担の場合で約1.3~2万円、1割負担の場合で約4~7千円となります。

また、ALTA療法を他の治療方法と併用する場合には、それに応じて治療費が上乗せされます。そのため、Ⅳ度のいぼ痔や外痔核・切れ痔を伴っている内痔核などの場合は、上記の金額よりも多くの治療費が必要となります。

ALTA療法で治療した場合に医療給付金はもらえる?

保険会社が販売している保険商品には、痔の手術が対象となっているタイプのものがあります。そのため、加入している保険によっては、いぼ痔治療における手術の際に保険金が下りることがあります。

このとき、一般的にALTA療法は「切らない手術」と呼ばれています。そのため、ALTA療法によるいぼ痔の治療には、保険会社からの給付金がもらえると思っている人が多いです。

ただ実際には、ALTA療法は手術に該当しません。そのため、ALTA療法による治療では、加入している保険による保険金は下りません。

実際に、2011年にALTA療法でいぼ痔を治療した人が保険会社に給付金の支払いを求めました。これに対して保険会社は「ALTA療法は手術にあたらない」として請求に応じませんでした。

保険金の支払いが妥当かどうかを判断する第三者組織である裁定審査会は、保険会社の主張を正しいと判断し、支払いする必要がないとしました。

このようなことからも、ALTA療法でいぼ痔を治療しても保険金は下りないということがわかります。

ALTA療法は安い?

いぼ痔における切除手術の平均治療費は3割負担・日帰りで2~3万です。また、手術の際に入院すると、費用は約2倍の4~6万円程度になります。そのため、単純な医療費を比較すると、ALTA療法の治療費はいぼ痔の切除手術よりも安価であるといえます。

ただ、すでに述べたようにALTA療法は切除手術よりも再発率が高いです。再発してもALTA療法が受けられるものの、再び治療を受けるとその分だけトータルの治療費が膨らむことになります。

また、対象となる保険に加入していれば、切除手術を行った際には給付金がもらえます。一方で、ALTA療法では保険金がもらえません。

そのため、いぼ痔の手術が適用となる保険に加入しているのであれば、切除手術の方が安く上がるケースがあります。このようなことから、「ALTA療法による治療費は切除手術よりも安い」とは必ずしもいえないです。

まとめ

一見ALTA療法は、「痛くない上に治療時間が短く、費用も安い」という夢のような治療法に見えます。これらのメリットは、痔を治療する人にとってありがたいものばかりです。

一方でALTA療法はいぼ痔が再発しやすかったり、後遺症・合併症のリスクが伴ったりする治療法でもあります。

そのため、ALTA療法による治療を考えているのであれば、これまでに述べたような情報を踏まえて冷静に判断することが大切です。

そうすることによって、治療後の結果が満足のいくものとなり、いぼ痔に悩むことのない健康的な日々を送ることができるようになります。